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Ⅰ.導入に当たっての基礎データ
1.作物の特徴
(1) 生育適温
・種子は4~30℃で発芽するが、最適発芽温度は18℃で、変温による効果は認められない。
・根の生育適温12~20℃、地上部の生育適温は15~25℃、25℃以上では高温のため生育が抑制される。
・耐寒性は強く、幼植物時には-8℃位でも凍害を受けない。
・球の肥大適温は15~20℃程度で、日長時間は長日の方が生育は旺盛で球の形成肥大にも強く影響するが、球形成の反応は品種により大きく異なり、品種の早晩生を分化させている。
(2) 早晩性と播種期の考え方
1) 花芽分化と抽苔
・タマネギは、ある一定の大きさに達した状態で、低温(9〜13℃程度)に一定期間連続して遭遇すると花芽を分化し、長日条件のもとで抽苔が促進される(グリーンプラントバーナリ型)。
・一般に生育が促進しているほど低温の影響を受けやすくなり、逆に早生の品種は抽苔しにくい性質をもつ。
2) 中晩生系の場合
・貯蔵を目的とした中晩生系のタマネギは、どの品種も12月~2月の期間は成長が停止し休眠状態になるが、もし休眠前に太りすぎると抽苔してしまうので、中晩生系は絶対に9月中旬以前の早播きはしない。
3) 極早生系の場合
・極早生系は休眠がなく早いといわれる品種ほど低い温度でも成長を続けることができるので、順調に生育が進むほど早く肥大し、早く収穫が可能になる。
・極早生系でも早播きすれば必ず花芽はできるが、その花芽が抽苔するまでに肥大が完了すれば問題が起きない。
・ただし、生育不良苗の定植や定植直後の乾燥による生育遅延、暖冬による地上部と地下部の生育バランスの崩れ、その後の急激な低温の襲来(降雪)などのストレスがかかると、分球や抽苔が発生する。
2.作型
(1) 早出し
・8月下旬~9月上旬に播種し、10月中旬~10月下旬に定植し、3月上旬~4月上旬に収穫する、マルチ作型。
・適品種は、貴錦、MKA22、浜育、浜ゆたかなど。
・アカヲ種苗株式会社のスーパーアップは、超極早生種で、8月下旬~9月上旬に播種し、10月上旬~10月中旬に定植し、2月からの収穫も可能なようである。
(2) 普通
・9月上旬~9月下旬に播種し、10月中旬~11月上旬に定植し、5月~6月に収穫する、露地またはマルチ作型。
・適品種は、七宝早生7号、ターザン、スパート、ターボ、アンサー、七宝甘70、錦毬など。
3.反収および単価
・反収は、10a当たり4,600kg程度である。
・単価は、1kg当たり98円~135円、平均115円である。
4.労働時間
・10a当たりの労力は、139時間でその53%が収穫・調製・出荷作業で、次いで育苗・定植作業が26%を占めている。
5.必要な種子量
・10a当たり3.5万粒程度必要である。
・種子代は、シーダーテープの場合7m(700粒)で900円、コート種子の場合5,000粒で3,500円程度である。
Ⅱ.栽培技術
1.育苗(セル苗)
(1) 施設・資材の準備
・苗床は日当たり、風通し、水はけ、水もちのよい場所、また、育苗期間が50~55日と長いのでよく肥えた場所を選択する。
・新しく苗床を造成する場合は、前年のうちに緑肥を栽培し完熟堆肥を施用して地力を高めるとともに必ず土壌診断を実施し、早めに土壌改良資材を施用して改良しておく。
・苗床の土壌改良目標はpH6.0~6.5、有効態リン酸100~130mg/100gとする。
・苗床の施肥は1a当たり窒素1.2kg、リン酸2.4kg、カリ1.2kgを目安とする。
・苗床面積は、セル苗(みのる式)育苗では、移植本畑10a当たり約20㎡確保する必要がある。
・十分に水を打った地床に根切りネットを張るか、底が網状になった育苗箱を置き、その上にセルトレイを並べる。
・トレイの上からも培養土が流れないようゆっくりとかん水する。
(3) 種まき
1) 播種時期
・は種時期は、品種と地域の気象条件を基準に、抽苔の危険性の最も少ない時期を選ぶ。
2) 播種量
・は種量は10a当たりセルトレイ75枚(33,600穴)用意することから、コ-ト種子10a当たり3.5万粒となる。
3) 播種方法
・は種前に床土を乾燥させ、適水分となったら砕土整地を丁寧に行い、天気の良い日を選んでは種する。
・覆土深は1cmとし、浅い場合は転び苗防止のためフルイを通した土をかける。
・は種後は薄く覆土を行い、地温の上昇や乾燥を防ぐため寒冷紗等を被覆し、たっぷりかん水し発芽を揃えるようにする。
・なお、発芽までは土壌に充分湿り気を持つように管理する。
(4) 育苗管理
1) 発芽から本葉抽出までの管理
・適温18~23℃(最高気温25℃、最低気温18℃)で管理する。
・播種後5~6日で発芽するため、寒冷紗等の被覆物を除去する(除去が遅れると作業時に苗を引き抜くため注意する)。
・被覆除去後は直ちにかん水し、覆土を乾燥させないように注意する。(1箱当たり0.2~0.3㍑)
2) 本葉抽出以降の管理
・本葉2枚目が出てきてから、かん水はやや控え根の伸長を図る。
・かん水のタイミングは、ポットの覆土の半分が白く乾いてから、ムラのないように適宜かん水する。
・加湿にすると苗が徒長したり、立枯病や、かびの発生が多くなる。
・適宜換気を行い、ハウス内温度を25℃以上にしないように管理する。
・定植の10~14日前にはかん水を打切り、ポット強度を高める。
・ただし、かん水打切り後6~7日目頃にポットが崩れないで抜けるときは、適宜少量かん水する。
・移植前日にはたっぷりかん水し、ポットに十分水が浸みるようにする。
・苗床期間中、気温が高く降雨が多い場合は徒長傾向となるため、苗が倒伏する前に草丈長の1/3以内を目安に好天の日、葉先を剪葉(カット)し腐敗病予防のため薬剤による防除を実施する。
・苗の葉身切除は、定植直前ではなく5~6日前に行う。
・なお、剪葉した残さについては病害発生防止のために、極力苗床外に搬出する。
(5) 苗床における主な生理障害と対策
1) 濃度障害
・葉色が黒ずんだり根の先端が褐変し艶がなく縮れて短い場合、バンドの下やハウスの縁など多水分の所の生育が良く乾く所の生育が悪い場合は、施肥過多(特に窒素)の可能性が高い。
・この場合はかん水を繰り返し、肥料濃度を薄める手立てをとる。
2) リン酸欠乏
・全般的に茎葉の生育不良であったり、客土や深耕部分、心土破砕部分が生育不良である場合は、土壌中リン酸濃度の低下の可能性がある。
・過リン酸石灰等を散布し、十分にかん水する手立てをとる。
3) 窒素欠乏
・全体に葉色が黄変し生育が不良となる場合は、炭素率の高い未熟有機物の施用や窒素施肥量の不足、かん水過多による窒素流亡などによる窒素の欠乏の可能性がある。
・硝安等を散布し、十分にかん水する
4) 石灰不足による低pH、石灰質の施用不足
・全般的に生育不良の場合、石灰不足による低pH、石灰質の施用不足の可能性がある。
・防散炭カル等を散布し、十分にかん水する
※肥料や石灰を追肥する場合は、葉の露が落ちてからムラなく散布し、直ちに十分かん水を行って葉から肥料を洗い流す。
2.畑の準備
(1) 適土壌と基盤の整備
・タマネギは根が太く細根が少ないため、リン酸の利用率が悪く、リン酸吸収係数が大きく、可給態の少ない畑では収量を大きく左右する。
(2) pHの矯正と土壌改良
・酸性土壌に弱く、pH6.0~6.8程度がよいとされる。
・新畑の熟畑化には2~3年かかるので、計画的にリン酸資材や石灰・有機物を施用し、土づくりをしておく。
・特に、火山灰土では、一度にリン酸を多量投入すると乾腐病が発生しやすいので注意が必要である。
・一般畑からタマネギ畑に転換する場合、深さ20cmまでの土壌改良を行うには、リン酸成分で300~400kg/10a程度(土壌診断による)が必要である。
(3) 堆肥の施用
・堆肥や有機質肥料の施用は、タマネギバエやタネバエを誘引する恐れがあるので、施用時期に留意する。
3.施肥
(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・タマネギは生育期間が長い割に養分吸収量は少ない作物である。
・養分の吸収はカリが最も多く、ついでに窒素、石灰、リン酸の順であるが、球に貯えられるのは窒素、カリ、リン酸の順である。
2) 窒素
・窒素は生育、収量、品質に大きな影響を与える。
・球肥大期の窒素の肥効は抑えた方が玉伸びがよくなる。ただし、窒素が不足すると球の肥大不良や腰高球になりやすく、抽苔しやすい状態になる。
・窒素が遅効きした球や遅く窒素を追肥した球は、窒素を追肥しない球よりも萌芽が早くなり、腐敗球が多くなる。
・窒素が効きすぎると肥大が遅れ病害を受けやすくなり、青立ちが多くなる。
3) リン酸
・タマネギは根が太く細根が少ない為、リン酸の利用率が悪く、リン酸吸収係数が大きくて可給態の少ない畑では収量を大きく左右する。
・窒素やリン酸の多肥は風乾歩合、糖度を下げ、日持ちを悪くし腐りやすく品質の低下をもたらす。
・リン酸肥沃度が80mg以下の場合は、別途土壌改良材としてリン酸を施用する。
・窒素はもちろんのことリン酸の多施用も貯蔵性を低下させる。
・リン酸は全量基肥で、根の近くに施用しないと肥効が落ちる。
4) カリ
・カリは球の肥大に影響が大きく、特に生育後半に多く吸収させると貯蔵性が高くなり、カリが少ないと貯蔵中の腐敗が増加する。
・また、カリが不足すると、べと病が多くなる。
5) 微量要素
・ネギ類の特殊な臭気の主成分は硫化アリルという硫黄化合物で、硫黄を含む肥料の効果が大きい。
(2) 施肥の方法
・10a当たり施肥量は、窒素18kg、リン酸22kg、カリ18kg程度とする。
・リン酸肥沃度が80mg以下の場合は、別途土壌改良材としてリン酸を施用する。
・追肥を行う場合は、早出し作型の場合は2月上旬まで、普通作型の場合は3月上旬までに終わらせる。
4.植え付け
(1) 植え付け方法
・育苗日数50~55日、葉数2~3枚の苗を移植する。
・畦立てマルチ後植え穴をつけ、3cm程度の浅植えとする。
・大苗の早植えは、抽苔を誘起する最大の要因である。
(2) 栽植密度
・畦幅120~150cm、株間10cmの4条植えとし、10a当り27,000~33,000本程度とする。
(3) マルチの種類
・マルチは透明度が高く赤外線を多く通すほど地温が上がるので、黒<シルバーや色物<透明の順に促成効果があり、その差は1週間程度と考えられる。色を変えることにより収穫時期の幅を持たせることが可能である。
5.管理作業
(1) かん水
・植付け後は直ちにかん水し,1週間程度はマルチ面からかん水し,活着促進を図る。
・2月上旬頃から球の肥大が始まるので年内にある程度の株の大きさにしておく必要があり、秋期に乾燥が続く時は、適宜かん水を行う。
(2) 除草
・マルチ栽培の場合、植え穴の除草については、苗が大きくなる前の年内に早期に抜き取るようにする。
・タマネギは雑草に弱いので、除草対策を早期に行う。
6.主な病害虫と生理障害
・注意を要する主な病害は、苗立枯病、ベト病、白色疫病、ボトリチス菌による葉枯病、軟腐病、萎黄病、黒斑病、さび病、灰色腐敗病などである。
・注意を要する主な害虫は、シロイチモジヨトウ、ネギアザミウマ、ネギハモグリバエなどである。
・主な生理障害は、などである。
7.収穫
(1) 収穫適期
・早出し栽培では球の肥大が2月上旬頃から始まり、球が十分に肥大し、倒伏を始めた頃から収穫できる。80%以上の倒伏で、葉が青いうちに収穫すると、収量も最高になる。
・普通栽培では茎葉を切断し、切断面を乾燥させた後、収穫する。
(2) 収穫方法
・早出し栽培で人力で収穫する場合は、晴天時に引き抜き、2~3時間程度乾かし、その後首部を長さ1.5cm程度切ると同時に根を切り土を落とし収穫する。