- 作物の生理に合致し、環境にも配慮した施肥を行うためには、土壌分析結果を活用し、適切な土壌診断を行う必要があります。
- 以下に、土壌分析結果のうち特に重要なものについて整理しました。
1.pH
・土壌診断値の中で最も重視すべきなのはpH値で、現場で生育障害がみられる場合の多くは、作物の適正pH値から大きく逸脱していることに起因しています。
・表1に野菜類の最適pH領域を整理しましたので参考にしてください。
・また、表2に酸性矯正する場合の炭酸カルシウム施用量のめやす(アレニウス氏表)を掲載します。
表1 主要野菜の好適pH
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表2 アレニウス氏表による酸性矯正用炭酸カルシウム施用量(目標pH6.5、kg/10a)
土性 | 腐植含量 | 4.7 | 5.0 | 5.3 | 5.6 | 5.9 | 6.2 |
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砂壌土 | 含む | 306 | 255 | 205 | 154 | 104 | 53 |
富む | 456 | 379 | 304 | 229 | 152 | 75 | |
頗る富む | 711 | 593 | 475 | 356 | 238 | 120 | |
壌土 | 含む | 456 | 379 | 304 | 229 | 152 | 75 |
富む | 608 | 506 | 405 | 304 | 203 | 101 | |
頗る富む | 914 | 761 | 610 | 458 | 306 | 154 | |
埴壌土 | 含む | 608 | 506 | 405 | 304 | 203 | 101 |
富む | 760 | 634 | 507 | 379 | 254 | 128 | |
頗る富む | 1,116 | 930 | 745 | 559 | 374 | 188 | |
埴土 | 含む | 760 | 634 | 507 | 379 | 254 | 128 |
富む | 914 | 761 | 610 | 458 | 306 | 154 | |
頗る富む | 1,318 | 1,099 | 880 | 660 | 441 | 221 |
注1:耕土深10cmに要する施用量
注2:消石灰使用の場合は0.75を乗じた量を施用する
注3:火山灰土壌の場合は0.7を乗じた量を施用する
2.EC
・ECは電気伝導率のことで、土壌中の水溶性塩類の総量を表します。
・ECは硝酸態窒素含量との間に正の相関関係がみられ、土壌中の硝酸態窒素含量の推定に有効で、ECが高い土壌では、一般的に土壌中に硝酸態窒素が多く残っている可能性が高いといえます。
・つまり、土壌のEC値がわかっていると、その測定値に応じて肥料の窒素成分を減らすことが可能となります。
・ただし、施設土壌では硝酸態窒素のほかにも硫酸イオンや塩素イオンなどの水溶性塩類が多く残ることがあることから、ECが高いのに土壌中の硝酸態窒素が低い場合があります。
・したがって、施設土壌ではRQフレックスなどを利用し、土壌中の硝酸態窒素を測定して、窒素肥料を減らすなどの対応が必要となります。
表3 ECに基づく窒素施肥の考え方(北海道)
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表4 ECからみた基肥窒素の見込み量(和歌山)
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3.有効態リン酸
・黒ボク土はリン酸固定力が強いので、水溶性リン酸よりく溶性リン酸の方が肥効が高いといわれています。
・ただし、寒冷地では初期生育の確保のため、水溶性リン酸とく溶性リン酸を併用することが望ましいです。
・有効態リン酸の測定値が過剰な場合は、リン酸の施用を控え、基準値内へ向かうよう施肥管理をします。
4.塩基バランス
・土壌中に含まれる塩基量の比率を塩基バランスといい、石灰と苦土、苦土とカリのミリグラム当量の比率で表します。
・石灰/苦土比=(2)~6以下、苦土/カリ比=2~(4)以上が適正値です。
・このバランスが崩れると、例えば、苦土が基準量あるのに苦土欠乏症状が現れるなどの現象が起こります。
5.塩基飽和度
・塩基飽和度は、陽イオン交換容量(CEC)に占める交換性陽イオン(カリウム、マグネシウム、カルシウム)の比率を示しています。
・塩基飽和度の適正幅は作物の種類によっても異なり、レタスやホウレンソウなどは塩基飽和度に敏感、スイートコーンなどは比較的影響を受けにくい作物とされています。
・塩基飽和度が過剰になると、土壌(CEC)に吸着されなかった石灰などの塩基があふれ、ハウスでは表層に塩類集積したり、あふれた石灰などがリン酸などと結合し、リン酸が効きにくくなり土の物理性も悪くなったり、施用したチッソ肥料(アンモニア)があふれ土壌養液濃度が高まり、根の濃度障害が発生したりします。
・塩基飽和度が過剰な場合、過剰な石灰、苦土、カリ肥料の施用量の削減や、クリーニングクロップの活用、深耕の実施などの対策を取ります。
6.土壌診断の基本的な考え方
・pH値を最重要視して診断を行います。
・ただし、施設土壌などでECが高いと見かけ上のpHが低く出るので、両者の数値を同時に読み取る必要があります。
・pHが高いにも関わらずCaが少ない場合は、作物の要求量を満たすため、石灰含有量200mg/100g程度を目標に石灰の施用を行います。
・上記の場合、客土や完熟堆肥を施用しCECを高めることが根本的な解決策となります。
・pH値を矯正する場合、使用する資材は塩基バランスを考慮して炭カルや苦土炭カル、ようりんなどを使い分けます。
・塩基バランスの改善で苦土資材を使用する場合、pH値により硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを使い分けます。
・塩基バランスを適正にすることは非常に重要ですが、塩基飽和度が高い場合にバランスを改善するために苦土を施用するとさらに飽和度が高くなり、ホウ素、マンガン、鉄などの微量要素の欠乏を招くリスクが高まるので、この場合はカリの減肥を行い、石灰、加里飽和度を低下させることでバランスの改善を行い、苦土の欠乏症が発生した場合は、その程度に応じて硫マグの葉面散布などの対策をとります。
※秀農業経営コンサルタントでは、顧客様の土壌分析値を基に、顧客様のご使用される肥料での施肥設計やより望ましい施肥設計の提示、コスト削減の提案などを行うことができます。