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Ⅰ.セルリーの概要
1.セルリーの導入
(1) 栽培面での特徴
・栽培面でのポイントは、良質堆肥を用いて根張りを良くすること、活着後はかん水を控えて株張りを良くし、心立ちの始まる頃から養水分を不足させないような管理をして大株を育てることである。
(2) 経営面での特徴
・1人1日の選別の可能量は200kg程度なので、収穫量5,000kg/10aとすると約25日が必要となる。
・収穫期間15日で自家労働力2名とすると、1作当たり栽培面積は10~12aが限界であるが、作型の組合せで栽培面積を拡大することも可能である。
・栽培期間が約6カ月と長く、年間労働時間は10a当たり約200時間で、そのうち収穫・育苗・移植作業が全体作業の8割を占めるので、他作物との競合を十分考慮する。
2.来歴
・セルリーの原産地は、地中海沿岸地域とされ、ヨーロッパからインド西北部にかけての湿地に野生種が分布している。
・古代ギリシャ、古代ローマ時代には薬用効果のある野菜として使用され、葬儀や祭り、魔除けなどにも使われていたらしい。
・インドから10世紀に中国に入り、胡菜(現在の芹菜)として記録されている。
・栽培が始まったのは16世紀頃、イタリアで食用として始まりそれがフランスへ伝わり、17世紀後半には著しく改良が進み、葉柄が肥厚しにおいの少ないものが現れ、軟白法も考案された。
・その後19世紀頃までにはヨーロッパ全域とアメリカにも伝わったといわれている。
・日本へは、文禄・慶長の役(1592~1598年)で出兵した加藤清正が、朝鮮半島から「東洋種」のセルリーを持ち帰ったという説があり、そのことからセルリーには「清正人参」という異名がある。
・江戸時代になるとオランダ船によって「西洋種」が入ってきて、「オランダミツバ」などとも呼ばれたが定着しなかった。
・明治初年に開拓使が、ヨーロッパ改良種、つまり現在のセルリーをもたらし栽培が始まったが、香りが強すぎて受け入れられなかったようである。
・現在出回っているセルリーは、香りが比較的弱いアメリカの品種で、昭和50年代頃から一般的になった。
3.分類と形態的特性
(1) 分類
・セリ科オランダミツバ属の1、2年草
(2) 根
・根群はヒゲ根で細根が少ない。
・支根が数本長く伸びるが、根群の大部分は地表付近にあり、酸素要求量が極めて高い作物である。
・吸肥力は弱い。
・セルリーの根は縦・横とも80cmくらいの間に分布し、細根の最も密生している部分も深さ22cm程度のところでやや深い。
・セルリーの根は好気性で、有機物が多く耕土の深い排水性の良好な土壌が望ましい。
(3) 花芽分化と抽苔
・グリーンバーナリ型植物で、花芽分化は、葉令の進む程低温に敏感に反応する。
・特に葉令が進むと、15℃以下の低温に15日以上あうと確実に花芽分化し抽苔するので、生育前半が低温の作型では保・加温による抽苔防止が必要となる。
4.生育上の外的条件
(1) 温度
・生育適温は15~20℃で、高温に弱く25℃以上では生育が減退し、品質も劣化する。
・また、比較的低温に耐えるが、10℃以下では生育は遅延する。
・セルリーの生育適温は20℃で、25℃を超すと葉色が淡くなり、葉柄が徒長して厚みが失われ株張りが悪くなる。
(2) 水分
・セルリーは乾燥に弱い。
(3) 光
・セルリーの光飽和点は4.5万ルクス程度である。
(4) 土壌
・洪積埴壌土は株張りが良く、葉柄が太く、ス入りが遅く品質の良いものができやすい。
・一般に、砂壌土、砂土は通気性がよいので作りやすいが、生理障害や肥料焼けを起こしやすく老化も早い。
5.品種
・北海道で作られているセルリーの主な品種は次のとおりである。
(1) コーネル619
・コーネル619は、コーネル大学でコーネル6とコーネル19の交配により育成され、昭和24年に日本に導入された。
・その後、この品種を元に多様なコーネル619系の品種・系統が作出された。
・生育旺盛で草丈が高く、黄軸で葉柄が太い。
・適期栽培では定植後約70日から収穫でき、90日で2kg程度の大株になる。
・葉柄色は黄白で長さと厚みがあり裂けにくく、強烈な香りや青くさみが少なく、葉柄にスジがなく丸くて太い。
・葉柄が長いため、ばらして2~3本売りできる。
・葉柄数がやや少なく、高温期における栽培が難しい。
(2) トップセラー(タキイ)
・生育旺盛で病気に強く、作りやすい。
・株張りはやや立性で第1節間は長く、芯葉もよく伸びて大株で多収でき、1kg程度の小株どりも可能である。
・抽苔は、コーネル619より半月程度は遅い。
・葉柄は幅広く、厚肉でスジが少ない。
・葉柄色は淡緑で、葉色は緑色でつやがある。
・モザイク病および葉枯病に強い抵抗性を持っているが、黒色芯腐れの発生が多いので注意する。
6.作型
・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 促成
・11月下旬~12月下旬は種、3月上旬~3月下旬定植、5月中旬~6月下旬収穫
(2) 半促成
・12月下旬~1月下旬は種、3月下旬~4月下旬定植、6月中旬~7月中旬収穫
(3) 春まき(トンネル、露地)
・2月上旬~4月下旬は種、5月上旬~7月中旬定植、7月下旬~10月上旬収穫
(4) ハウス抑制
・5月上旬~5月下旬は種、7月下旬~8月上旬定植、10月中旬~11月上旬収穫
Ⅱ.セルリーの栽培技術
1.育苗
(1) 育苗容器
・セル育苗する場合は、200穴セルトレイを利用し、2.5葉程度で9cmポリポットへ移植する。
(2) 種まき
・育苗箱を利用する場合は、条間6~8cmでスジまきする。
・覆土は、種子が小さく好光性種子なので極薄くかける。
(3) 発芽
・セルリーの発芽適温は15~20℃で、25℃以上になると発芽しにくくなり、30℃以上ではほとんど発芽しない。
・発芽まで10~14日ほどかかるので、発芽するまでしっかりと水やりし、乾かさないように不織布または新聞紙をかける。
・発芽力は不均一で、発芽揃いまで20日程度かかる。
(4) 移植までの管理
・温度は昼間20~22℃、夜間は14~18℃、夜間地温で15~18℃程度とし、特に13℃以下の低温にあわせないようにする。
(5) 移植(鉢上げ)
・育苗箱を利用する場合は、出芽揃い後密生部をピンセットで間引き、株間2cm程度にする。
・本葉2~3枚になったら、直径9cmのポリポットに移植して育てる。
(6) 定植までの管理
・鉢上げ後、活着までの3日間は軽く葉面かん水を行い、日射が強い場合は寒冷しゃなどで遮光する。
・定植7日前には鉢をずらし、鉢穴からの根を切り、同時に定植前日まではかん水を控えて苗の硬化を図る。
・本葉が7~8枚になったころ、本畑へ定植する。
2.畑の準備
(1) 適土壌と基盤の整備
・土壌有機物に富み、排水良好なほ場を選ぶ。
・生育期間が長く吸肥力が弱いので、肥沃かつ保水性・排水性の良い土づくりが必要である。
・在圃期間が長期にわたるので、土壌緩衝力のある肥沃な土壌が望ましい。
・大株に仕上げるには根張りが良く、深さ40cm程度まで白い根が密に伸びることが望ましいので、心土破砕を行い作土層の浅い土壌では高畦とし有効土層を深める。
(2) pHの矯正と土壌改良
・適正pHは6.0~6.5で、石灰・苦土・ホウ素が十分吸収できる条件が必要である。
・pH 5.5以下では生育が劣り石灰欠乏が出やすく、pH7以上ではホウ素欠乏症が出やすい。
(3) 堆肥の施用
・セルリー栽培では堆肥は極めて重要で、大株に育てるためには10a当たり3~5t施用する。
(4) 輪作
・土壌病害が発生しなければ、2~3年の連作が可能である。
3.施肥
(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・10a当たり収量が6tのときの養分吸収量は窒素18~22kg、リン酸8~10kg、カリ60~70kg、石灰23kg程度である。
・セルリーは耐肥性が大きく野菜のうちで最も多肥栽培が行われるが、カリを除いて養分吸収量は少ない。
2) 窒素
・窒素は定植40~50日頃から吸収が急増する。
・窒素が少ないと、分化葉数が少なく筋っぽい葉柄になって商品性が劣る。
3) リン酸
・リン酸が多すぎると、草丈は伸びるが細長く筋っぽくなる。
4) カリ
・カリは定植30~40日頃から吸収が急増する。
・カリの吸収量は非常に多い。
・カリは濃度が高くなると節間の伸びは抑えられるが葉柄が太くなり、筋が少なく艶が出て品質が良くなる。
・カリは肉質に及ぼす影響が大きく、少ないと肉薄となり、調製重が低下する。
5) その他の要素
・ホウ素欠乏が出やすいので、ホウ素として0.2~0.3kg以内を施用する。
・セルリーはホウ素欠乏や石灰吸収不良による黒色芯腐れが出やすい。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・耐肥性は強いが吸肥力が弱く、かん水量が多いので多肥栽培しないと太い葉柄をもった株にならない。
・完熟堆肥を十分施し、肥料不足にならないよう15~20日おきに追肥を行う。
・基肥は、有機質肥料と緩効性肥料を組み合わせ、スターターとして速効性肥料も加味する。
・追肥は、窒素とカリを数回に分けて行う。
2) 施肥設計(例)
区分 | 肥料名 | 施用量 (kg/10a) |
窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | 575V2号 | 260 | 14.3 | 18.2 | 13.0 | 2.6 | ・追肥は15日おきに3回程度行う |
ASUS202 | 130 | 15.6 | 13.0 | 15.6 | |||
追肥 | S444 | 140 | 19.6 | 15.4 | 18.2 | ||
合計 | 530 | 49.5 | 46.6 | 46.8 | 2.6 |
4.定植準備
(1) 畦立て、マルチ
・1条植えでは幅60cm、2条植えでは幅100~120cmの畝を立てる。
・高さは、根が深く入らないので20cmの高畝とする。
・マルチは定植の3~5日前に行い、マルチ用フィルムは黒または銀ネズマルチを使用する。
(2) 栽植密度
・畝幅60cm、株間35cm(10a当たり5000株)を標準とする。
・株間を狭くすると色が淡くなり、茎が軟白状態のようになるので注意する。
5.定植
(1) 苗の状態
・セルリーは生長が遅いので、本葉7~8枚に育てた苗を定植する。
・低温期ではより大苗を使ったが活着が良いが、その場合は12~15cmポリポットで育苗する。
(2) 定植の方法
・大きめの植え穴をあけ、鉢土とほぼ同じくらいの深さに植え、植え穴のまわりに土を入れ水で落ち着かせ畑土と密着させる。
・このとき、新葉に土が入らないように注意する。
6.管理作業
(1) 温度、換気の管理
・ハウス栽培では外気温が13℃以上、ハウス内気温が15℃以上になったら換気を始め、通風を良くする。
・ハウス栽培で通風が悪いと軟弱徒長で肉薄となりやすい。
(2) かん水管理
・定植後活着まではやや多くかん水するが、活着後はかん水を控えて株張りを良くし、心立ちの始まる頃から養水分を不足させないように管理する。
・活着後はかん水を控えて大きくがっちりした新葉が出るように管理すると葉柄がやや開張し、株張りが良くなる。
・生長には多くの水分を必要とする。
・かん水が不足すると茎葉が短く葉柄が偏平となり、スジが硬くス入りが早くなり、品質、収量が著しく低下する。
・したがって、かん水施設なしでは栽培は成り立たない。
・かん水方法は葉上かん水、ベット上かん水、畦間かん水などの方法があるが、葉上かん水、ベット上かん水が多く行われている。
・常に土壌湿度を高めておくより水分変動の大きい方が生育は良いことから、ある程度乾き気味とし通気性を高めつつ、まとまった量をかん水することが望ましい。
・具体的には、芯葉が立ち上がるまでは、約1週間に1回程度のかん水とし、その後徐々に間隔を縮め、収穫20日前ころからは毎日行うようする。
・品質保持のために、収穫4~5日前よりかん水は控えめとする。
(3) 敷きわら
・水を好む作物なので十分に水やりし、敷きワラをして乾燥を防ぐ。
(4) 脇芽取り、芽かき
・本葉が12~13枚ころになると、芯葉が立ち始めるとともにわき芽が伸びてくる。
・これを放置すると生育が遅れるので、晴れた日に黄変した下葉と一緒にかきとる。
・夏どり作型では、傷口から軟腐病菌が侵入しやすいので、除去後は必ず防除を行う。
(5) 追肥
・追肥は、芯葉の立ち始め期から施す。
・1回目は定植後15~20日、2回目をさらに15~20日後に行い、その後は生育の状態を見ながら行う。
・15℃以下での追肥は、硝安など効きのよいものを選ぶ。
・かん水による肥料の流亡が大きいので、窒素とカリの30~40%を追肥する。
・追肥は1回より3回に分けた方がよく、15~20日おきに実施する。
(6) ジベレリン処理
・生育と肥大の促進を良くするためにジベレリン処理が行われているが、不適切な使用方法では品質低下などをまねくので注意が必要である。
・使用するときの温度は13~20℃の範囲で、高温時の使用は品質低下の恐れが強いので、夏どりでは原則として使用しない。
・効果は気温によって左右され、高温下ではジベレリンの効き方が早く敏感に、低温下では遅れてあらわれる。
(7) 草姿
・望まれる草姿は株張りがよく、第1節間長が長いことで葉柄の硬さや丸み、色などが良好なものがよい。
7.主な病害虫と生理障害
(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、菌核病、軟腐病、葉枯病、斑点病、モザイク病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アシグロハモグリバエ、アブラムシ類、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、茎割れ症状、芯腐れ、ス入りなどである。
8.収穫
(1) 収穫適期
・発芽後 120日目ころに草丈、葉数の増加がほぼ完了し、芯葉が立ち上がってくる。
・これ以降、肥大充実期が30~40日続き、収穫物が1㎏以上になったら収穫期に達する。
・ス入りは葉柄の先端部より進行するので、時々先端を切って確認しながら第3節がス入りする前に収穫を終える。
(2) 収穫方法
・収穫はカマなどで株元から切り取り、黄変した葉や芯腐れ、ス入り等を除き、土砂で汚れた部分は軟らかい布できれいに拭き取る。