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Ⅰ.サヤエンドウの概要
1.サヤエンドウの導入
(1) 栽培面での特徴
・栽培面でのポイントは、排水性の良いほ場を選び、pHの矯正、堆肥の施用を行い、生育期間中常に樹勢を維持して双莢率を高めることである。
(2) 経営面での特徴
・サヤエンドウは、高温に弱いため夏期における府県での生産・供給が不可能に近く、6月下旬頃の福島産の出荷が終わると10月上旬頃まで国内産の供給量がほとんどなくなる。
・適期収穫には毎日の収穫が原則で、個選の場合は収穫から調製まで1kg当たり1時間程度必要なことから、収穫盛期のほ場では1人当たり3a程度が限界(粗選別の場合は、2倍程度の収穫が可能)となる。
2.来歴
・エンドウの原産地は、中央アジアから中近東、地中海沿岸にかけての地域と考えられている。
・約5000年前のスイスの湖上生活住居跡からエンドウの種子が発見されており、古代ローマや古代ギリシャでも栽培されていて、エジプトのツタンカーメンの墓からも出土している。
・ただし、古代のエンドウは乾燥種子の利用であり、現在のものよりも小粒で褐色種であったとみられている。
・その後、インドから中国、そして日本へと伝播したフィールドピー型のコースと、ヨーロッパへ伝播し、ヨーロッパ北部で改良されてアメリカへ伝播したガーデンピー型のコースとに別れたとされている。
・エンドウは長い間穀物として利用されていたが、13世紀頃にフランスで若いさやを食べるようになり、後にグリーンピースとしての利用に発展した。
・日本へは、8~10世紀頃に中国から伝えられたとされ、平安時代に編纂された「和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」に「のらまめ」と記載されているほか、「伊呂波字類抄」や「庭訓往来」には「園豆」と記されている。
・ただし、江戸時代まではフィールドピー型の乾燥種子の利用が主で、野菜として利用されるようになったのは明治時代になって欧米からガーデンピータイプの品種が導入されてからで、これらが各地に土着し、さらに第2次世界大戦後、欧米からの新品種導入で品質が大幅に改良された。
3.分類と形態的特性
(1) 分類
・エンドウは、莢がかたく実だけを食べる「実エンドウ」、エンドウを若どりして莢を食べる「サヤエンドウ」、莢と未熟な豆の両方を食べる「スナップエンドウ」の3種類に分けることができる。
・なお、エンドウの若い芽や葉を摘んだものが「豆苗」である。
(2) 根
・直根性の主根型で、主根が一本深さ1m以上に伸びるが、二次根は少なくあまり伸びない。
・根の発生量が少ないため、根を痛めないよう十分配慮する。
(3) 茎
・一般に、短日条件では総分枝数が多く、これに低温条件が加わると低節位分枝が多くなる。
・一方、長日+高温条件では低節位分枝が少なくなる。
・1次分枝の発生部位は、通常2カ所に分かれる。
・主要な分枝は地際部1~3節から発生し、とくに第2節から分岐したものが強勢である。
・低節位分枝(1~3節)が多いほど多収となる。
・もう1郡は、主枝の第1花着生節位の直下、通常第10節前後から1~3本生じる。
・強勢な品種では、分枝の数はおよそ8~15本である。
(4) 花器
・着花習性は、第1花は高節位の第1分枝の直下節につき、以後連続着花する。
・早生種では第1花着生位置が低くなり、晩生種では高くなる。
4.生育上の外的条件
(1) 温度
・発芽適温は18~20℃で、4日程度この温度が続くと発芽始めとなる。
・低温の適応性が広く4℃でも30日以上かければ、80%前後の発芽歩合を示す。
・生育適温は15~20℃で、10℃以上あれば順調に生育する。
・地温に対しては、野菜の中で最も低温伸長性が高く、0℃でも多少伸長する。
・開花・結実の適温は14~18℃で、5~20℃であれば正常に行われるが、20℃以上では胚珠数が減少し、気温が25℃以上になると受精能力が低下し結実不良となる。
(2) 水分
・酸素要求量(25%以上)が野菜中で最も高いので、停滞水などで酸欠状態にしない。
(3) 土壌
・排水良好な砂壌土~壌土が適し、かつ水分を維持できる土質がよい。
5.品種
・北海道で作られているサヤエンドウの主な品種は次のとおりである。
(1) 白花砂糖(ひかり)
・白花、砂糖豌豆系タイプの極早生品種。
・従来の品種より低節位から結実し、節間が短く病気に強いが、環境条件により草丈が低くなったり半つる性になることがある。
・食味は、甘味に富み、特にやわらかいので市場性が高い。
(2) 電光30日(タキイ)
・白花つるありの極早生種。
・生育旺盛で耐寒・耐暑性が強く、長期間収穫できる。
・双なり莢が多く、曲り莢が少ない。
(3) 華夏絹莢(雪印)
・赤花つるありの早生品種。
・生育旺盛で、草丈は1.6~1.8mとやや高くなり、分枝数は少なめで着莢節はやや高いが、双莢率が高く着莢数が多い。
・莢はやや細長く、濃緑で光沢がある
・うどんこ病に比較的強い。
(4) ニムラサラダスナップ(ホクレン)
・莢ごと食べるスナップタイプの極早生品種。
・着莢節位が低く、分枝の発生が少なく、着莢性がよい。
・短節間で多節数が確保され、双莢率が高い。
・大莢、濃緑で揃いがよく、秀品率が高い。
(5) スナック753(サカタ)
・スナップタイプの極早生品種。
・耐寒性強く、着莢節位が低く、分枝の発生はやや多い。
・莢色が濃く、肉厚の大莢で子実がよくふくらみ、食味が良い。
6.作型
・北海道における主な作型は次のとおりである。
(1) 春まきハウス
・4月上旬~4月下旬は種、6月中旬~8月上旬収穫
(2) 露地(直播)
・5月上旬~7月上旬は種、7月上旬~9月下旬収穫
(3) 夏まき(ハウス雨よけ)
・7月中旬~7月下旬は種、8月下旬~10月下旬収穫
Ⅱ.サヤエンドウの栽培技術
1.畑の準備
(1) 適土壌と基盤の整備
・排水良好な砂壌土~壌土が適し、かつ水分を維持できる土質が最適である。
・耕土の深いほ場の選定や深耕、高畝による排水対策が重要である。
・酸素要求量が高い作物であることから、排水不良地では根腐れをおこしやすく、枯れ上がりも早くなりやすいので、20cm以上の高畝栽培とし明渠・暗渠等を整備する。
(2) pHの矯正と土壌改良
・好適pHは6.5で、酸性土壌に弱い。
・播種の2週間前までにpH調整を行っておく。
(3) 堆肥の施用
・前年秋に完熟堆肥3~4t/10aを施用し、深耕することにより有効土層の拡大と物理性改善を図り、十分な根張りのできる環境を整えておく。
(4) 輪作
・サヤエンドウは連作すると茎葉が黄化したり、主枝や側枝の伸長が抑制され、草丈が短くわい化したりして、早く枯れるようになる。
・これらの障害やいや地現象が出やすいので、最低でも5年以上輪作する
(5) 畝立て、マルチ
・酸素要求量が高い作物なので20cm以上の高畝栽培とし、マルチは早春まきでは透明を、晩春まき以降はシルバーマルチを使用する。
・シルバーマルチはアブラムシ、スリップス、ハモグリバエ等の忌避効果があるが、マルチの光沢が葉の繁茂で隠れると効果が消失するため、草丈が小さい内(草丈50~60cm以下)の寄生回避で使用する。
2.施肥
(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・サヤエンドウの養分吸収量は、作型や品種によって異なるが、10a当たりの収量が1tとすると窒素16.5kg、リン酸6.0kg、カリ12.0kg程度である。
2) 窒素
・基肥窒素は、根粒菌の着生を促しつるぼけを防止するため、多施用しない。
・エンドウの花芽分化は播種後間もない時期であり、根粒の着生はまだ不十分な時期であることから、初期の窒素施肥の効果が有効とされている。
・ただし、窒素の過多は根粒着生を遅らせ、節間が伸びて徒長を招く。
・窒素の効きすぎで、過繁茂になると開花や収穫時期に遅れがみられ、落花による収量減にもつながる。
・開花期から収穫期の窒素不足は枯れ上がりを早くし、収量減となる。
3) リン酸
・リン酸は、生育初期に発根や分枝の発生を促すため、幼苗期に根圏内に施用するのが最も効果的である。
・リン酸とカリは肥効が高いため多めに施す。
4) カリ
・カリが不足すると、徒長や不結実の原因となるので、生育の中期以降カリが不足しないように施肥を行う。
・カリは徒長を抑え耐寒性、耐病性を強める。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・土壌消毒を行うと肥効が高くなりがちであるので、基肥を少なくし、追肥重点の施肥を行う。
2) 施肥設計(例)
サヤエンドウ
区分 | 肥料名 | 施用量 (kg/10a) |
窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | S702 | 70 | 4.9 | 14.0 | 8.4 | 4.2 | ・追肥分をあらかじめロング肥料で施用しておく |
エコロング413(70日) | 50 | 7.0 | 5.5 | 6.5 | |||
合計 | 120 | 11.9 | 19.5 | 14.9 | 4.2 |
スナップエンドウ
区分 | 肥料名 | 施用量 (kg/10a) |
窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | S702 | 140 | 9.8 | 28.0 | 16.8 | 8.4 | ・追肥分をあらかじめロング肥料で施用しておく |
エコロング413(70日) | 80 | 11.2 | 8.8 | 10.4 | |||
合計 | 220 | 21.0 | 36.8 | 27.2 | 8.4 |
3.播種
(1) は種方法
・種子量は10a当たり4~5㍑準備する(1㍑当たり粒数2300前後)。
・種子消毒をした後、えんどう用根粒菌を粉衣する。
・播種は、一穴当たり2~3粒まきとし、2cmくらい覆土し十分鎮圧する。
・土壌が乾燥している場合は、は種後にかん水する。
・高温期の作型は、分枝数が減少するので播種量を多くする必要がある。
・なお、マメ類の種子は胚乳がほとんどなく、種子の中で子葉が大きく発達した無胚乳種子で、乾いた種子を浸漬すると急激に吸水して子葉に亀裂が起こって発芽が悪くなるので注意が必要である。
(2) 栽植密度
・畝幅120~150cm、株間は15~20cm程度とする。
4.管理作業
(1) かん水
・かん水方法は、畝間かん水とかん水チューブを利用した方法がある。
・かん水チューブを設置すると追肥と合わせて実施できる。
・草丈20cmくらいの時にかん水を行うと、根の働きを促し樹勢を整えることができる。
・夏期の高温や干ばつ状態で水分不足になると、莢の曲がりや肥大が悪くなり品質・収量が低下するので5~7日間隔でかん水を行い、収穫最盛期以降も樹勢を落とさないよう注意する。
・なお、開花期に樹勢が衰えていないのに、花が小さかったり花柄が細かったら水分不足と判定する。
(2) 整枝
・7節前後に初花房が着くが、樹づくりを行う必要があるので、着莢開始位置は概ね13節(短期栽培では10節)を目安とし、それ以下の花房と側枝は除去する。
・親づるから子づる、孫づるになるほど実つきが悪くなり、孫づるにはほとんど実がつかない。
・したがって、孫づるはすべて摘除して風通しを良くする。
(3) 支柱とネットの設置
・本葉3~4枚(草丈15cm前後)の巻きづるの出る前に支柱とネットを設置し、巻きづるの誘引を行う。
・支柱の高さは2.1~2.5m、支柱の設置間隔は3.6~4.0m程度とし、更に補強支柱を入れる。
・生育後半になると通路に茎葉が繁茂するので、中段あたりに30~40cm間隔で横ひもを張り固定する。
(4) 草勢の維持
・子実が成熟する前に収穫するため、株への負担は小さくて済む。
・根が傷むと樹勢が弱ってしまうので、常に根の生育環境を考えながら肥培管理を行う。
・托葉が小さかったり花弁が細いとき、上位節の花数が減少したり主茎や一次分枝の先端部が細くなってきたときは、樹勢が弱っている合図である。
・一方、花がダブル(2莢)で大きく揃っており、花弁が反転している、茎がえんぴつ程度の太さになっている、托葉が大きく肉厚で、丸葉の3対葉になっている、つるの先端が大きく横向きになっている、キヌサヤの場合頂部から10cm下で、スナップの場合頂部から7節下で開花しているなどが、正常な生育のサインである。
・8~9節の莢の原基は発芽期であり、あまり良い莢は着かないので、樹勢を維持するため早めに除去する。
・また、長さがなくても幅があれば、子座不形成の成熟莢なので除去する。
・このようにして、なるべく株への負担を減らし草勢の維持に努める。
・草勢が弱まると双莢が少なくなり、さらに弱まると花飛びが起こる。
(5) 追肥
・第1回目は、花芽分化時期(は種後1ヶ月頃)に、双莢率の向上をねらって窒素成分量で3~4kg/10a施用する。
・第2回目は、最初の花が見え始める頃に、初期収穫量の確保をねらって窒素成分量で2~3kg/10a施用する。
・第3回目以降は、第2回目の追肥より10~15日間隔で草勢維持を目的に実施する。
・液肥で追肥する場合は、1回当たり窒素成分量で0.5kg前後/10aを4~5日間隔で施用する(1回当たりの上限窒素量は1kg/10aとする)。
・樹勢が衰えると収穫位置が高くなり、花びらに勢いが無くなる。
・また、さやが曲がったり、着色不良になり、うどんこ病も発生しやすくなる。
・樹勢を維持するには、物理性が整っている前提で追肥を行う。
・1花着果では双莢より長い大莢になりやすい。
5.主な病害虫
(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、うどんこ病、褐斑病、褐紋病、こうがいかび病、根腐病、灰色かび病、モザイク病などである。
(2) 虫害
・北海道において注意を要する主な害虫は、アザミウマ類、アブラムシ類、エンドウシンクイガ、エンドウゾウムシ、ハモグリバエ類などである。
6.収穫
(1) 収穫適期
・キヌサヤエンドウの場合、収穫適期は子実の大きさで米粒大、莢の長さ6~8cm、厚さ3mm以下の時である。
・開花から15日頃が一般的な収穫時期であるが、高温期では7日前後で適期となる。
・スナップエンドウの場合は、粒が十分にふくらんで、莢がまだ鮮緑色で外観のよい時に収穫する。
・温暖期では、開花後およそ20日位でこの状態になる。
(2) 収穫方法
・収穫時間は、朝どりとする。
・収穫後、莢の品温が高いと品質が著しく低下するので、速やかに予冷する。
・樹勢が低下するのを防ぐため、規格外の過熟莢や曲がり莢、老熟莢など商品価値のない莢も収穫に合わせて取り除く。