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Ⅰ.ミズナの概要
1.ミズナの導入
(1) 栽培面での特徴
・栽培面でのポイントは、栽培期間が短いことから発芽を揃えることが最も重要で、発芽半作と考える。
(2) 経営面での特徴
・以前は、秋から冬にかけて大株で収穫されていたが、近年は1年を通しての需要が拡大し、小株どりの周年栽培が主流となっている。
・栽培方法は、直播と移植栽培があるが、作業の手間やコストの面を考えると直播で間引きなしが有利である。
2.来歴
・ミズナは、海外には見られない菜類で、日本が原産の野菜である。
・ミズナの原始型と考えられる潮江菜やオソカブナが、高知県下に残存している。
・京都では古くから京野菜の類として栽培されてきたが、古い文献からミズナを特定することは難しく、はっきりミズナとわかるものは1645年に刊行された「毛吹草」で、山城の名産品として水菜と記されている。
・ミズナは当時、普通の畑では当たり前に使われていた下肥を用いず、流水を畝間に引き入れてつくったのでこの名がついたといわれ、ミズナのうち丸葉のものが1800年頃から京都の壬生寺周辺で栽培されていたため、ミブナの名がついたといわれている。
・古くから漬物、鍋物用として親しまれていたミズナであるが、平成になってサラダ用食材として生食が普及したことにより、消費が拡大した。
3.分類と形態的特性
(1) 分類
・アブラナ科アブラナ属の越年草である。
(2) 根
・根は過湿に弱いので、排水の悪い畑では畝を高めに立てることが必要である。
(3) 茎葉
・ミズナは非常に分枝性が強く、葉に深い切れ込みがあって葉先が尖るのが特徴である。
(4) 花芽分化と抽苔
・ハクサイと同じ種子感応型で低温にある一定期間あうと花芽が分化し、その後の高温、長日条件で抽苔が促進される。
4.生育上の外的条件
(1) 温度
・生育適温は15~25℃と冷涼な気候を好むので、真夏の高温条件では徒長ぎみな生長となり、逆に10℃以下の低温条件では花芽分化してしまう。
(2) 土壌
・有機物を含んだ保水性と排水性の良い土壌を好む。
5.品種
・北海道で作られているミズナの主な品種は次のとおりである。
(1) 京みぞれ(タキイ)
・小株どりに適した、周年栽培可能な早生種で、北海道の作付面積のおよそ8割を占めている。
・草姿は立性で、鮮緑の細葉で欠刻が多く、葉軸は細くて純白に仕上がり品質がよい。
・生育は比較的じっくりとしており、在圃期間が長く、収穫適期幅が広い。
・株張りにすぐれ、葉ぞろいと株ぞろいがよく、束ねやすく、収穫調製が容易で、在圃性にすぐれる
・気温が高く、軟弱に育ちやすい夏でも、がっちりとした株に育ち、病気の発生が少ない。
(2) 京錦(ミブナ/タキイ)
・株張りと株揃いに優れ、分げつの発生が旺盛で、収量性の高い品種である。
・高温、低温の両条件下でも生育が安定しているので、周年通して作りやすい。
(3) 早生千筋京水菜(丸種)
・株張りと株揃いに優れ、分げつ力が旺盛で、周年栽培可能な早生種。
・鮮緑色の細葉で、多数の欠刻があり、葉軸は非常に白く極細で、軸味がよい。
・高温期の小~中株どり栽培では、播種後30日位から出荷できる。
6.作型
・北海道における主な作型は次のとおりである。
(1) ハウス(直播・小株)
・3月下旬~10月上旬は種、5月下旬~12月中旬収穫
(2) ハウス(移植・中株)
・1月上旬~9月下旬は種、1月下旬~10月下旬定植、4月上旬~12月下旬収穫
Ⅱ.ミズナの栽培技術
1.畑の準備
(1) 適土壌と基盤の整備
・年間4~5作の連作となるので、有機質の施用や深耕を行い土づくりに十分心がける。
(2) pHの矯正と土壌改良
・適pH6.0~6.5になるように、あらかじめ矯正しておく。
(3) 堆肥の施用
・排水性、保水性のよい土壌をつくるために、完熟堆肥を施用する。
・未熟堆肥を施用すると畑で発酵することになり、作物が順調に生育しなくなるので注意が必要である。
・ミズナは年間の作付け回数が多く、腐植(土壌有機物)が消耗しやすいため、土づくり効果の高い植物質系の堆肥等の施用により有機物を補給するとともに、土壌の物理性の改善をはかる。
(4) 畝立て、マルチ
・幅70cm、高さ10cm程度の畝を立てる。
・水はけの悪い畑の場合は、畝を高めにし排水をよくする。
2.施肥
(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・移植栽培を行う場合は、定植後、急激に分げつし養分吸収量が高まる。
・移植・中株栽培は、直播・小株栽培に比べて一株重が重く総収量が多いが、乾物率が低く窒素含有率も低いことから、単位面積当たりの窒素吸収量は直播・小株栽培と同等である。
2) 窒素
・ミズナは好硝酸植物であり賛沢吸収するため、土壊中の窒素成分のコントロールを十分に行わないと品質が低下する。
・収穫時土壌硝酸態窒素と硝酸含有量との間には一定の相関があり、ミズナの硝酸含有量を低減させるには収穫時土壌硝酸態窒素を減少させる必要があり、窒素を過剰施肥しないことが必要である。
3) リン酸
・リン酸施肥量は年の1作目は10kg/10a、2作目以降は5kg/10a程度でよいと考えられる。
4) カリ
・カリの施肥量は窒素と同程度の12kg/10aでよい。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・施肥は元肥を中心とし、施肥量は土質や前作によって異なるが、標準として(ハウス秋まき栽培の場合)、成分量で窒素、リン酸、カリとも10a当たり10kg程度とする。
・施肥量は10a当たり窒素成分量で8kg、ハウスでは5kgを標準とし、全量元肥とする。
・また、高温期は5割減、低温期は5割増施肥する。
・あわせてFTEなどの微量要素材も施用する。
・生育期間が短いため施肥設計は元肥を主体とし、速効性化成肥料を中心に使用する。
・また、生育が早いため、途中の追肥や管理などによる修正は難しく、地力の影響が大きい。
・北海道の移植・中株栽培では、作付け前の土壌硝酸態窒素量が5~10mg/100gの場合9kg/10a、15mg/100g以上では無窒素としている。
・総収量および窒素吸収量は窒素施肥量の増加に伴い増加するが、窒素施肥量9~ 12kg/10aで概ね頭打ちとなる。
・窒素施肥量が12kg/10aを超えると収穫時土壌硝酸態窒素は急激に増加する。
2) 施肥設計(例)
区分 | 肥料名 | 施用量(kg/10a) | 窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | NS262 | 80 | 9.6 | 12.8 | 9.6 | 0.0 | ・2作目からは土壌残存窒素量に合わせて減肥する |
合計 | 80 | 9.6 | 12.8 | 9.6 | 0.0 |
3.播種
(1) 時期
・早春どり栽培では、抽苔の回避やハウスの栽培回転数アップのため、トレイ育苗による移植栽培が有効である。
・トレイ育苗する場合は200穴トレイを用い、本葉3~4枚で、トレイから苗が抜けるようであれば定植適期である。
・温床育苗を利用し、気温は13~25℃で管理して根張りのよいガッチリした健苗に仕上げる。
・育苗期の施肥は窒素成分が多いと発芽不良、マグネシウム欠乏などが発生しやすくなるので控えめにする。
(2) は種方法
・1か所3~5粒播種し、覆土は種子が隠れる程度に薄くし、均一に行う。
・トレイ育苗する場合は1穴1粒まきとする。
(3) 栽植密度
・直播栽培の小株どりでは、条間40cmで株間5~7cm程度とする。
・夏季栽培では疎植とし、密植による軟弱徒長を防ぐ。
・大株にする場合は、さらに株間を広くする。
4.管理作業
(1) かん水
・適湿の条件で播種を行い、播種後は発芽をそろえるようにかん水を行う。
・発芽には適度の土壌水分が必要だが、逆に過湿になると発芽せずに欠株になったり、発芽しても根張りが悪く、生育が順調に進まなくなるので注意が必要である。
・収穫の7日前頃からかん水を控えることで、袋詰め後に高温過湿条件で株が腐敗する「ずるけ」が生じないようにする。
(2) 温度管理
・ハウス、トンネル内の温度は、日中なるべく13℃以上を確保するようにする。
(3) 間引き
・本葉3~4枚ごろまでに、株間が5~6cmになるように間引きする。
・間引きは、生育が中程度の株を残すように行い、間引き後の株揃いを良くさせる。
・秋からは、適温下での栽培となるため株が大きくなり、同じ株間では春や夏より株が太くなるので株間を3~4cm程度と少し狭くする。
(4) 被覆
・低温期の栽培ではハウスやトンネルを使用し、播種後に不織布をベタがけして保温を行い、生育促進と抽苔防止を図る。
(5) 中耕・除草・培土
・生育途中に除草を兼ねて条間を軽く中耕してやると、根に酸素が供給されやすくなり、生育が一段と進む。
(6) 夏期の遮光
・夏期の栽培では播種前に遮光資材で展張し、地温・気温の上昇を抑えるとともに土壌水分の変化を少なくし、子葉が展開して発芽がそろった後、遮光資材をはずし軟弱徒長を防止する。
(7) 追肥
・大株に仕立てる場合は、株の生育を見ながら2~3回追肥を行う。
・2回目の追肥は薬色を観察し、調整することが品質の向上につながる。
・収穫間際に施用すると、葉色が濃くなり葉軸に緑色が目立ち苦味も出るため、施用はできるだけ控える。
5.主な病害虫と生理障害
(1) 病害
・ミズナは、登録農薬が少ないので、不織布などを播種後に畝全体にベタかけ、またはトンネルがけするなど、耕種的防除に努める。
・北海道において注意を要する主な病害は、白さび病、立枯病、炭疽病、根こぶ病、べと病、リゾクトニア病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アザミウマ類、アブラムシ類、コナガ、ハモグリバエ類、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、株枯れ症状、葉先の白化症状、葉焼けなどである。
6.収穫
(1) 収穫適期
・高温期で播種後30日程度、低温期では60~80日で収穫可能となる。
(2) 収穫方法
・収穫は、草丈25~30cmぐらいになったら、株を傷めないよう土中の根を切って行う。
・収穫後は、品質が低下するので速やかに子葉・枯葉・根部を除去し袋詰めする。