ファレノプシス褐斑細菌病

農薬に関する記述については執筆当時のものであり、農薬を使用する場合は、必ずラベルの記載事項を確認し、適正に使用すること。

1.概要

2.被害のようす

(1) 発生動向
各地で発生している。
(2) 病徴と被害
1~2年の特に軟弱な株は葉の病徴がバルブに進行して、株全体が発病枯死するため大きな被害をあたえる。特に鉢替え後の発生は根からの感染で、急激に株全体が腐敗枯死する。葉に褐色の小斑点を生ずるようであれば緊急の防除が必要である。
一方、3年を経過した成株の発生はほとんどの場合葉身にのみ発病し、バルブまで及ぶことは少ない。しかし、防除を怠ると次々と新しい葉が発病するため、防除の必要性は高い。
1) 病徴
・はじめ水浸状の小斑点が葉の中央や基部などに現われる。小斑点はハローを伴い急速に拡大するとともに淡褐色になり、やがて葉の全体に広がる。本病は成株及び苗にも同じ様に発病するが、鉢替え後に多発する傾向がある。
2) 被害
・病葉が下葉の場合は、その葉は腐敗・枯死して脱落するが、新葉の場合は、さらに内部に腐敗が広がり、ついには株全体が腐敗して褐変枯死する。

3.病原菌の生態と発生しやすい条件

(1) 病原菌の生態
・病原菌はシュードモナス属の細菌で、ファレノプシスのほかにカトレヤ、シンビジウム、デンドロビウムなどのラン科植物に発生するが、ファレノプシスでの被害が最も大きい。
・多湿の環境で発生が多い。
・病斑上には病原細菌があふれだしているので、灌水の際に水が飛び散ると周囲の株に伝染する。
・腐生性が強いため、健全な組織からは侵入できない。このため、他の病害虫におかされた傷口などで増殖して、病原力を高め侵入する。
・傷口がある場合105cells/mlの菌密度で6時間で感染する。
・病原細菌は発病株の用土や鉢の中にも潜んでいるので、植替えのときに伝染する。
(2) 発生しやすい条件
・15~30℃で発病し、25℃前後が発病適温である。
・過乾、過湿をくり返し、生育の悪くなった株は感染しやすい。
・植込み材料で発病に差がみられ、バーク>水ごけ>軽石の傾向がある。
・肥培管理と発病との関係が強く、多肥培養された株は発病しやすい。
・温室の中が多湿の状態だと多発しやすい。
・病株などの伝染源が温室のなかにあると、植替えの際に蔓延しやすい。

4.防除のポイント

(1) 耕種的防除
① 被害残渣の除去
・発病株は健全株から隔離するか焼却処分する。
・病斑の認められる葉は切り取って焼却する。
・新葉の基部まで侵された株はただちに焼却処分する。
・枯葉を丹念に取り除き、病原菌の生息場所を少なくする。
② 換気
・温室内には常に空気が流れていることが望ましいので,ぜひとも数台の扇風機を設置して,強制的に通気をはかるべきである。
・降雨時には扇風機などで通風して結露を防ぐ。
③ かん水
・かん水は晴天の日の午前中に行なう。
・地上部かん水から1株かん水に替えて、多湿にならないようにする。
④ 消毒
・ベンチ、植込み材料、鉢などは蒸気で消毒する。
⑤ 衛生
・ベンチ下を清掃するなど温室内を清潔に保つ。
・管理作業時に手で次々と伝染するため作業時に手をよく洗う。
・使用後の資材はよく洗浄して病原菌のエサを取り除く。
⑥ その他
・多肥栽培は発病を助長するため、適正な肥培管理を行なう。
・鉢間をひろげ、栽培密度を下げる。
・寄生性のあるラン類と同一温室で栽培しない。
(2) 農薬による防除
① 予防防除
・発病のおそれのある温室では,梅雨期から初秋のころまで,Zボルドーかキノンドー水和剤またはスターナ水和剤のいずれかを月に1~2回散布して予防する。
② 初発後の防除
・初発後や鉢替え直後には、アグリマイシン100、ナレート水和剤、アグレプト水和剤などを10日おきに2回ほど散布し、以後は予防散布と同様に薬剤散布を行なう。
・病徴の軽い株は病葉を切り取り、傷口にアグリマイシン100のペーストを塗布し、さらにアグリマイシン100またはアグレプト水和剤、銅ストマイ水和剤などを1週間に1回の間隔で2~3回散布する。
・発病葉の病原菌が死滅すると腐敗部は乾固する。
③ 農薬使用の留意点
・銅剤は薬害を出しやすいため、3,000倍程度の濃度で用いる。
・花弁に薬剤が付着すると薬害や薬斑を生ずるため散布に注意する。
・降雨時の散布は薬液が乾くよう、午前中に行なう。