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Ⅰ.ハクサイの概要
1.ハクサイの導入
(1) 栽培面での特徴
・栽培面でのポイントは、ハクサイは根が細く、乾燥や過湿に弱いことから、団粒構造を発達させる土づくりを行うことである。
(2) 経営面での特徴
・近年は、全国的に栽培面積、収穫量とも大きな変動がない野菜である。
2.来歴
・ハクサイは地中海沿岸が原産地とされており、原種であるブラッシカ・ラパは紀元前の中国に伝わると栽培されるようになり様々な野菜を生んだ。
・7世紀に華中で、華北のカブと華南のパクチョイが交雑して生じた牛肚菘(ニウトウソン)が、最初のハクサイと考えられている。
・当初は結球性が弱く、16~18世紀になってようやく結球性を持つものが現れ品種改良が進んだ結果、今日見られるハクサイが生まれた。
・日本には、江戸時代以前から度々渡来したが、強い交雑性のため品種を保持できなかった。
・正式にハクサイが日本に渡来したのは明治時代の初期で中国の山東省からであり、本格的に栽培が行われるようになったのは、日清・日露戦争に従軍した兵士たちが持ち帰ってきてからといわれている。
・しかし、当初は結球させるのが難しく、試行錯誤だったようである。
・その後、宮城県や愛知県、石川県で結球性の高い品種の育成に成功したことで、大正時代から昭和初期にかけて一気に全国に普及した。
3.分類と形態的特性
(1) 分類
・アブラナ科アブラナ属の二年生植物である。
(2) 根
・ハクサイは、レタス、キャベツと比較して地上部の割に根量が少なく、水分の消費量が大きい特徴がある。
・したがって、高温になるほど白菜にとって不利な栽培条件となる。
・ハクサイの根は細くて弱いが非常に多く、広く、深く張るが大部分は地表下15cmの範囲に分布するので、乾燥に弱く酸素要求量が大きいので過湿にも弱い。
(3) 葉
・播種後45日までは1日当たり1~1.5枚の分化速度であるが、これを過ぎると急激に分化が進み、播種後70~80日で最高に達する。
・外葉が14枚程度になる頃芯葉が立ち上がり始め、内側に屈曲した姿勢となり結球が始まる。
・結球態勢をとるころになると葉長/葉幅は1.2~1.5になり、葉身が広く葉柄の短い大きい丸い葉が現れる。
(4) 花芽分化と抽苔
・ハクサイの花芽分化は種子感応型で、一般には13℃以下の低温によって誘起されると言われており、5℃を中心に1~8℃の範囲の低温が最も強い影響を与えるとされている。
・花芽分化後の抽苔は、温暖長日条件で促進される。
・一般的な低温感応は、翌日の日中気温が25℃以上の高温と多日照条件によって花芽分化反応が消去される現象(離春化現象)があり、低温感応の初期ほどこの現象が発生しやすいとされている。
4.生育上の外的条件
(1) 温度
・ハクサイの生育適温は15~23℃、結球適温は15~16℃、最低結球温度4~5℃であり、23℃以上の高温になると生育が抑制されるため、夏の高温期に向けての栽培管理は難しい。
(2) 水分
・最も干ばつの影響を受けやすい時期は結球始期で、結球始め~結球中期まで4~5日おきに降雨があると、生理障害が少なく収量が増加する。
(3) 土壌
・ハクサイは、根の特性から乾燥に弱く過湿にも弱いことから、耕土が深く団粒構造で肥よくな排水良好な土壌が望まれる。
5.品種
・北海道で作られているハクサイの主な品種は次のとおりである。
(1) 晴黄65(タキイ)
・定植後60日前後で収穫できる早生種である。
・草姿は立性で玉揃いがよく、玉は尻張り、胴張りのよい砲弾形に仕上がる。
・球内色は鮮やかな黄色で、早生種としては葉質がやわらかく品質、食味に優れている。
・根こぶ病、軟腐病、ウイルス病などに強く、べと病に対して特に強い耐病性を有する。
・石灰欠乏症やゴマ症などの生理障害の発生が少なく、草勢旺盛で栽培が容易である。
(2) 晴舞台65(タキイ)
・草勢が旺盛で、栽培容易な春~初夏どりの黄芯系晩抽早生種である。
・尻張りと胴張りがよく肥大性に優れるが、比較的過熟になりにくいので在圃性があり収穫期の幅が広い。
・収穫適期の球断面は鮮やかな黄芯で、葉質がやわらかく、品質良好である。
・べと病をはじめとした各種病害に耐病性があり、耐病性を両立しているので7月~10月上旬どりまで安定した収穫が可能である。
(3) 春笑(タキイ)
・低温伸長性や結球性に優れ、草勢旺盛で栽培容易な極晩抽の黄芯系極早生種である。
・晩抽性に特に優れることから、春どりのハウス・トンネル栽培に向いている。
・草姿は立性で玉ぞろいがよく、球姿は尻張りと胴張りのよい砲弾型である。
・球色は濃緑で、収穫適期の球内部は鮮やかな黄色を呈し、葉身部が多く、良質感に優れる。
・石灰欠乏症・ゴマ症などの生理障害に強く、過熟になりにくく、在圃性にすぐれ収穫期の幅が広い。
・根こぶ病にも、ある程度の耐病性を持っている。
(4) きらぼし65(タキイ)
・根こぶ病の耐病性をレベルアップした、夏秋どりの晩抽早生種である。
・晩抽性と耐病性を両立しており生育旺盛で栽培が容易で、夏を越える作型でも安定した作柄が可能である。
・玉の肥大がよく、球姿は尻張り、胴張りのよい砲弾形である。
・球内色は鮮黄色で、葉質がやわらかい。
・石灰欠乏症やゴマ症などの生理障害の発生が少ない上、過熟になりにくく、在圃性にすぐれ収穫期の幅が広い。
6.作型
・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 春まき(トンネル)
・2月下旬~3月下旬は種、4月上旬~5月上旬定植、5月中旬~6月下旬収穫
(2) 春まき~夏まき
・4月中旬~8月上旬は種、5月中旬~8月下旬定植、7月上旬~10月下旬収穫
Ⅱ.ハクサイの栽培技術
1.育苗
(1) 施設・資材の準備
・根がセルの外に出ることを防ぎ、根鉢の形成を良くするため、必ずエアープルーニング設置とする。
(2) 育苗土
・含水タイプでないセル培土を使用する際は、トレイに土を詰める前に培土50㍑に対して1割程度の水を加えてよくかき混ぜてから使用する。
(3) 育苗容器
・春まきのトンネル栽培では、72穴セルトレイまたは36穴の連結ポットを用いて、本葉6~7枚程度の大きめの苗を作る。
・それ以外の作型では、128穴または200穴セルトレイで20~25日前後育苗した苗を定植する。
・なお、高温期に育苗する場合は白色のトレイを使用すると、地温の上昇や葉焼けを防ぐことができる。
(4) 種まき
・播種後は、バーミキュライトで覆土しかん水する。
・高温期の場合は、白色のバーミキュライトで粗いものを使用するとよい。
(5) 定植までの管理
1) 温度管理
・育苗温度は15~20℃とし、最低夜温が13℃以下、日中は25℃以上にならないように管理し、ガッチリした健苗に仕上げる。
・春まき栽培では、花芽分化を起こす前に必要な結球葉数を確保する必要があるため、最低気温10℃以下の播種では温床育苗が必要となる。
・夏まき栽培で気温が30℃以上の場合は、白色のトレイを利用して軒下などの涼しい場所や寒冷紗などで日よけを行う。
2) かん水管理
① 播種後
・播種後のかん水は、トレイの下から水が少し落ちる程度とする。
・コート種子の場合は、コート内にある種子が吸水するのに十分な水分が必要なため、初期のかん水は通常よりも多めとする。
② 発芽後
・発芽後から本葉が展開するまでは、一番徒長しやすい時期で、特にかん水管理に注意が必要である。
・夕方には、表面が乾くようにすることで胚軸の長さをコントロールする。
③ 本葉1~2枚時
・かん水ムラによる生育のばらつきが起こりやすい時期である。
・生育の遅い部分には多めにかん水したり、曇天や雨の日にはできるだけ水をやらないようにして、乾いた部分のみかん水を行うなどして生育を揃えるようにする。
④ 本葉3枚以降
・生育が旺盛になり、水の通りが悪くなり、蒸散量も増えるのでたっぷりかん水を行う。
・定植する苗が老化にならないよう、トレイから苗を引き抜いて根回りや根色の確認を行う。
3) 順化
・屋内から外に移して強い光と風通し、日較差を利用して3日程度順化する。
・苗がかたく仕上がり、病害防除や定植後の活着促進につながる。
・外に移す際は、晴天の日が続く時が望ましい。
2.畑の準備
(1) 適土壌と基盤の整備
・乾燥に弱い上、過湿にも非常に弱いことから、通気性、排水性のよい土壌が望ましい。
・また、肥料への反応は比較的多肥に耐える反面、吸肥力が強くないので土壌条件を良くしないと肥料の吸引力が劣る。
(2) pHの矯正と土壌改良
・根こぶ病対策として土壌pHの適正化は有効な手段だが、pHが7以上になるとカルシウムやホウ素などの要素が不可給化するため、pH6.5程度に矯正する。
(3) 堆肥の施用
・ハクサイは、多量の養分を吸収して地力を消耗させるため、完熟堆肥を2t/10a以上施用する。
(4) 輪作
・栽培予定地は、4~5年アブラナ科作物の栽培経歴がないほ場で、前作として望ましい作物は小麦やえん麦などのイネ科作物である。
3.施肥
(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・生育初期の養分吸収は少なく、外葉形成後期から球肥大期にかけて吸収が盛んとなる。
・肥料への反応は、比較的多肥に耐える反面、吸肥力は強くないので土壌条件を良くしないと肥料の吸引力が劣る。
・養分吸収量は、10a当たり窒素23kg、リン酸9kg、カリ50kg程度である。
2) リン酸
・リン酸地力の低い畑では、ダブリン特17号などのリン酸資材の施用を行う。
・pHを上げないで石灰およびリン酸を補給する場合は、過リン酸石灰を用いる。
3) その他の要素
・結球開始期から肥大期にかけて、中位の外葉葉柄内側にホウ素の欠乏症状が生じることがある。
・これは高pHまたは乾燥で土壌溶液濃度が上昇し、ホウ素の吸収が阻害されることによる。
・また、泥炭土ではホウ素が欠乏しやすい。
・ホウ素欠乏防止のために、FTEを4kg/10a施用する(ホウ素として0.2~0.3kg以内を施用する)。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・初期生育の促進と後半の肥料切れ防止および生理障害発生抑制のために、一般化成とロング肥料を組み合わせた基肥全量全面施用を基本する。
・高温期では、石灰、ホウ素欠乏が出やすいので基肥をやや少なめとする。
・肥料切れにより白斑病や黒斑病の発生が助長されるので、追肥の時期(定植後20~25日頃)が遅れないようにする。
・緩効性肥料を用いることにより、全重、調整重ともバラツキが小さく、結球も締りが良くなる傾向がある。
2) 施肥設計(例)
区分 | 肥料名 | 施用量 (kg/10a) |
窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | NS262 | 80 | 9.6 | 12.8 | 9.6 | ・追肥は結球始めまでに行う | |
S15号E | 100 | 5.0 | 5.0 | 5.0 | 2.0 | ||
追肥 | S444 | 40 | 5.6 | 1.6 | 5.6 | 2.0 | |
合計 | 220 | 20.2 | 19.4 | 20.2 | 4.0 |
4.定植準備
(1) 畝立て、マルチ
・早どりをねらう作型では、定植後の活着をスムーズに進め初期生育を促進させるため、あらかじめトンネル、マルチの被覆を済ませて地温を上げておくと共に、苗は順化をしっかりと行い不織布のベタ掛け等を行う。
・根張りの良否が収量と品質に大きく影響するため、いずれの作型においても原則として高畝栽培を行う。
(2) 栽植密度
・畝幅60cm×株間50cm、10a当たり3,333株程度を標準とする。
5.定植
(1) 苗の状態
・定植前日に病害虫防除を行い、十分にかん水してポット内の土が湿った状態で定植する。
・定植作業は天気の良い日が望ましいが、トレイに直射日光が当たると鉢土が乾燥するので定植するまでは日陰に置いておく。
(2) 定植の方法
・高温少雨時は、子葉がやや隠れるくらいの深植えとする。
・高温期や乾燥時の定植は気温が低下してくる夕方に行い、高温乾燥時の日中定植は絶対に避ける。
6.管理作業
(1) 温度管理
・ハウス・トンネル栽培では、結球開始時までは最高気温33℃以下とし、初期生育の促進と花芽分化の抑制を図る。
・それ以降は25℃以下として結球を進める一方、温暖な日を選んでトンネルを除去する。
・トンネル除去時期は、外葉が15枚程度になり結球態勢に入ったときとする。
・遅れると外葉は大きくなるが、結球が進まず、球が小さくなる。
(2) かん水管理
・定植後は、十分なかん水を行って活着を促進させる。
・最も干ばつの影響を受けやすい時期は結球始期である。
・結球始め~結球中期まで4~5日おきにかん水すると、生理障害が少なく収量が増加する。
(3) 中耕
・中耕は、降雨後土が硬く締まったとき、追肥の後などに行うと効果が高い。
・遅すぎる中耕は、根を切断したり茎葉を傷つけ、軟腐病発生の原因となる。
(4) 追肥
・追肥を2回に分けて行う場合、1回目は定植後10~14日頃、2回目は20~25日頃を目安に行う。
7.主な病害虫と生理障害
(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、黄化病、黒斑病、尻腐病、軟腐病、根こぶ病、白斑病、腐敗病、べと病、モザイク病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アブラムシ類、キスジトビハムシ、コナガ、ダイコンバエ、ネギアザミウマ、モンシロチョウ、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、ゴマ症、芯腐れ症、葉先枯れ症、ホウ素欠乏症などである。
8.収穫
(1) 収穫適期
・品種や作期により、は種後55日~80日くらいで収穫期を迎えるので、成熟状況をこまめに確認し、八分結球(頂部を押さえて握ると弾力性がある状態)に達したら収穫する。
(2) 収穫方法
・収穫は涼しい時間帯に行い、外葉を2枚つけて調製する。
・高温期は、箱詰め後品温が上昇しないうちに、できるだけ早く予冷施設に搬入する。