ユリネの栽培

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Ⅰ.ユリネの概要

1.ユリネの導入

(1) 栽培面での特徴
・ユリネは、畑に植え付けするまでに3年、畑に植え付けてから更に3年の月日を必要とする。
・さらに、畑は毎年植え替えなければならず、一度植えた畑には最低でも4年は作付できない作物である。
・虫やウィルスに弱いため、養成段階では寒冷紗で覆い、夏には花に養分を取られないよう摘蕾作業が必要である。
・栽培面でのポイントは、ウィルス株の抜き取りをしっかり行い優良な種球を確保することと病害虫防除を徹底することである。
(2) 経営面での特徴
・国産ユリネの99%が北海道産である。

2.来歴

・ユリの原産地は、日本と中国を含む東アジアである。
・世界でもユリの球根を食用としているのは、日本と中国ぐらいと言われている。
・日本では、かなり古くから野生のものを食用としていたが、藤原京の時代以前から祭事に使用され、「三枝」と呼ばれていた。
・その昔は薬用として食され、滋養強壮、利尿、せき止め、産後の回復食などの薬理効果がある食物として親しまれていた。
・江戸時代には食用、観賞用の兼用で栽培していたという記録が残され、日本の伝統的野菜として今に伝わっている。
・北海道では、大正時代に多度志村の和田伊三郎という人物が、小鬼ゆりから選んで栽培に取り組んだのが始まりとされている。
・現在、国内で食べられているユリネの99%が北海道産で占められている。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・ユリ科ユリ属の多年草である。
(2) 根
・りん茎から伸びた茎の地下部各節から発生する根を上根(茎根、養分吸収根)、りん茎下の茎盤部から発生する根を下根(基根)と言う。
・上根は地下茎が萌芽してから発生し養分の吸収を行い、地上部が枯死すると同時に枯れる。
・下根は倒伏を防ぐ役割をし、通常、養分の吸収は行わない。
(3) りん茎
・ユリネは多年生で、地下に形成されるりん茎を貯蔵器官として越年し、毎年萌芽、球の肥大を繰り返す。
1) 球根
・地中の茎盤から発生したりん片が、生長して重なり合ってできたものである。
2) 木子
・球根の上の各節からできるりん茎のこと。
・木子の着生は植付けの深さ、品種によって異なり、5~6球着生し2~10g程度になる。
3) りん片子球
・りん片の基部に形成される小さなりん茎のこと。
・養成球の増殖に用いられる。
4) 分球
・茎盤に別に形成されるりん茎のこと。
・大きいものは母球、小さいものは木子と同じに扱う。
5) 子球
・木子、分球、りん片子球を総称して子球と言う。
6) 一年球
・子球を植えて、生育シーズンを終えたりん茎を一年球と言う。
・実生球も含む。
7) 成球
・販売できる大きさに肥大したりん茎のこと。
(4) むかご
・地上部の各節にできる腋芽をむかご(珠芽)と言う。
・摘蕾を早めに行うと発生が多くなる。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・生育適温は15℃~20℃で、冷涼な気候に適しており、低温に強く、球根が凍結しても自然に解凍されると萌芽、生育できる。
(2) 土壌
・作土が深く(30cm以上)、有機物に富み保水性、排水性の良い団粒構造が発達した土壌が適する。
・粘質な土壌で品質の良いユリネが生産される。
・火山性土壌や砂土では肥大は早いが、球のしまりが悪くなる。
・泥炭土壌では貯蔵中の腐敗が多い傾向にある。
・pH4.5~5.5の弱酸性土壌が適している。

5.品種

・北海道のユリネの栽培品種は、広島県と兵庫県から導入されたコオニユリの在来品種から育成されたと考えられている。
・北海道で作られているユリネの主な品種は次のとおりである。
(1) 白銀
・栽培の90%以上を占める主力品種である。
・球はやや扁平であるが、大きく白い。
・鱗片も大きく、調理の際扱いやすい。
・他の品種に比べ、紫色に変色しづらい品種である。
(2) 月光
・月光は、日本では、幕別町忠類地区と帯広市川西地区でしか栽培されていない品種である。
・白銀よりも色が白く、鱗片が中の方まで大きく、玉の締まりが良く、白銀に比べて甘みが強い。
・石灰欠乏症(あんこ症)が出やすい。

6.作型

・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 1年目(りん片子球)
1) 室内
・4月下旬~5月上旬植付、9月下旬~10月上旬収穫
2) 露地
・9月下旬植付、9月下旬~10月上旬(翌年)収穫
(2) 2年目(養成球)
1) 秋植え
・9月下旬~10月上旬植付、9月下旬~10月上旬(翌年)収穫
2) 春植え
・4月下旬~5月上旬植付、9月下旬~10月上旬収穫
(3) 3年目以降(販売球)
1) 秋植え
・9月下旬~10月上旬植付、9月下旬~11月上旬(翌年)収穫
2) 春植え
・4月下旬~5月上旬植付、9月下旬~11月上旬収穫

Ⅱ.ユリネの栽培技術

1.種球の養成

・露地でりん片を増殖して、りん片子球を生産する。
・120gの母球から、1g以上のりん片が約16枚とれるので、10a当たり120gの母球を約1000球準備する。
・植付け時期は、春でも秋でも良い。
・秋植えの場合はマルチで被覆し、翌春の5月中旬ころマルチを除去し、寒冷しゃをかける。
・かん水、分施、防除等の管理を適切に行うことにより、10a当たり子球を約3万球生産できる。

2.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・作土が深く(30cm以上)、有機物に富み保水性、排水性の良い団粒構造が発達したやや粘質の土壌が適する。
(2) pHの矯正と土壌改良
・pH4.5~5.5の弱酸性土壌が適している。
・石灰で酸度矯正を行う場合は、1年以上前に施用する。
・有効態リン酸は30mg/100g以上必要である。
(3) 堆肥の施用
・未熟な有機物が残っている畑では、サビ症の発生が多くなり、品質を低下させる。
(4) 輪作
・最低4年以上の輸作を守り、前作はイネ科作物が望ましい。

3.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・化学肥料や窒素の過剰施用は、球に汚点がつき製品率を低下させる原因になる。
・有機質肥料、緩効性肥料や完熟堆肥などを中心とした施肥を基本とする。
2) 窒素
・総窒素施用量は10a当たり25㎏とし、完熟堆肥など有機物を施用した場合は、その分を減肥する。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・秋植えは、リン酸や有機質肥料を植付け2週間前までに全層に施用し、窒素とカリは翌年施肥する。
・春植えは、基肥にリン酸を全量、窒素とカリは40%を全層に施用する。
2) 施肥設計(例)
種球養成(春植)

 区分 肥料名 施用量
(kg/10a)
窒素 リン酸 カリ 苦土 備考
基肥 S009E 60 6.0 12.0 5.4 1.8 ・有機質肥料と緩行性肥料を組み合わせる
エコロング413(100日) 30 4.2 3.3 3.9
合計 90 10.2 15.3 9.3 1.8

販売球(春植)

 区分 肥料名 施用量
(kg/10a)
窒素 リン酸 カリ 苦土  備考
基肥 S009E 100 10.0 20.0 9.0 3.0 ・有機質肥料と緩行性肥料を組み合わせる
エコロング413(70日) 50 7.0 5.5 6.5
エコロング413(140日) 50 7.0 5.5 6.5
合計 200 24.0 31.0 22.0 3.0

 

4.植え付け

(1) 栽植密度
・養成球の場合、畦幅60cm×株間9cmの3条千鳥植え(60,000球)
・販売球の場合、畦幅60cm×株間10~13cm(14,000~17,000球)
(2) 植え付けの方法
・秋植えの場合、植付けは10月上旬までに終わらせる。
・種球は堀取り後乾かさないようにし、水洗い後、大きさ別に分けて消毒してから植え込む。
・販売球の種球植え込み姿勢は横植えとし、一方方向に揃える。

5.管理作業

(1) マルチ
・生育を促進させるために、植え込み後11月頃にポリマルチで被覆し、5月上旬に除去する。
(2) 摘蕾
・摘蕾はつぼみの着生初期の7月中旬前後に行い、遅れないように進める。
・摘み取った蕾は病害の発生源とならないよう、速やかに処分する
(3) ウィルス株の抜き取り
・養成球畑のウイルス罹病株やウイルス性葉枯症株は、球ごと抜き取り処分する。
(4) 追肥(分肥)
・分施は2回に分けて1回目は萌芽期に、2回目は7月中旬の上根伸長期(着蕾期)に行い、8月の茎葉展開期以降にりん茎への養分転流がスムーズに進むようにする。
(5) 除草
・手取り除草および拾い草は8月中~下旬に、ユリネの茎葉や根を傷つけないよう留意しながら行う。

6.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、ウイルス病、えそ病、乾腐病、黒腐菌核病、灰色かび病、葉枯病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、カタクリハムシ、ジャガイモクロバネキノコバエ、チビクロキノコバエ、ユリクダアザミウマ、ロビンネダニなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、あんこ症、葉枯れ症などである。

7.収穫

(1) 収穫適期
・10月中旬~11月上旬が、収穫の盛期である。
(2) 収穫方法
・収穫はムレを防止するため、なるべく畑が乾燥した晴天の日に行う。
・茎を垂直に引き抜き、球を傷つけないようにする。
・堀り上げてから茎を抜く場合は、球を握らず根を持って抜く。
・堀り取り後は、長時間直射日光を当てたりしないようにする。
・根はテングスの20~30番で巻切り、流水で水洗した後、おがくずで包み込むように箱に詰めてゆく。