ニンニクの栽培

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Ⅰ.ニンニクの概要

1.ニンニクの導入

(1) 栽培面での特徴
・栽培面でのポイントは、新しく分化した鱗片を順調に肥大させるように、養分や水分を安定的に供給することである。
(2) 経営面での特徴
・10a当たりの労働時間は約300時間で、そのうち6割が収穫関連である。
・夏作物の収穫後に植付けが出来ることから、輪作上重要な品目である。
・水田転換作目として容易に導入ができる。
・冬期間に出荷調製が行えるため、冬期間の労働対策になる。
・優良種苗を使用した場合は、20%程度の増収が期待できる。
・種苗の増殖率が低く、種子ほ場の設置が本畑の約20%程度必要である。

2.来歴

・ニンニクはユリ科ネギ属の多年草で、野生種がアルタイ山脈やウラル山脈南部で見つかっており、タジキスタンやウズベキスタンなどを中心とした中央アジア原産だと考えられている。
・人類の歴史にニンニクが登場するのは、紀元前4,000年頃の古代エジプトで、紀元前3,750年頃に造られたとされるエジプトの王墓から9個のニンニクの粘土模型が発見されている。
・栽培は古代エジプト、ギリシャで行なわれ、その後インド、中国等へと伝播しており、中国へは漢の時代にすでに伝わっていたとされている。
・日本へは4世紀ころに、朝鮮半島、中国大陸を経て伝来したと考えられている。
・歴史上の記述としては、「古事記」(712年)に「蒜」の記載があるのが最初で、栽培に関しては918年の「本草和名」に記録されているのが日本における最古の記述である。
・ニンニクと呼ばれるようになったのは室町時代で、「撮壌集」(1454年)に「葫(にんにく)和名大蒜」と記載、「運歩色葉集」(1548年)に「葱蓐(にんにく)」と記載されている。
・ニンニクは長らく香辛料(薬草)や強壮剤など薬用として使われていて、料理に使うことはほとんどなかった。
・千数百年もの間、日常の食用品としての利用が少なかったのは、食材の持味を生かす和風料理には馴染まなかったからと思われる。
・家庭で調理されるようになったのは第二次世界大戦以降で、西洋料理や中華料理などが一般的になってからである。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・ユリ科ネギ属の多年草である。
(2) 根
・根は、その大部分が深さ20~30cmまでの浅い層に分布している。
(3) 葉
・萌芽は植え付け後20日頃から始まり、冬の寒さで生長が停止するまで普通葉の分化を続ける。
・越冬後は花芽分化前に形成された普通葉が気温上昇とともに出葉して、最終的には11葉前後となる。
(4) 花芽分化と抽苔
・花芽の分化は低温に遭遇して行われ、寒地系品種は暖地系品種より鈍く、低い低温に長くあうことが必要である。
・抽台の様相は、福地ホワイトは不抽台あるいは不完全抽台が多く珠芽のみを着けるが、富良野在来は花をつける。
・しかし、花は不完全で開花しても結実しないため、いずれの品種も繁殖は鱗片または珠芽による栄養繁殖による。
・北海道では5月上旬頃が花芽分化時期と思われ、抽台は6月上旬頃から始まる。
(5) 鱗片の分化
・鱗片の分化は、花芽の分化とほとんど同じ時期に行われ、花茎に隣接した数葉の葉えきに原基が形成され、その後数個の鱗片に分化する。
・鱗片が肥大して鱗茎(球)となる。
・鱗片は、福地ホワイトの場合は11枚内外の2~3葉に、富良野種の場合は11枚内外の2葉に着く。
(6) 鱗片の肥大
・鱗片の肥大は、寒地系の品種の場合、15~20度の温度と14~15時間の日長でよく肥大する。
・北海道では6月中旬ころから肥大が始まり、その後6月下旬~7月上旬にかけて最も肥大し、葉が完全に黄変するまで続く。
(7) 休眠と萌芽性
・ニンニクには休眠性があり、収穫後しばらくは萌芽しない。
・休眠明けの時期は9月上旬頃で、福地ホワイトは萌芽性が晩生である。
・休眠が明けると発根や出芽が認められ、商品性が著しく低下する。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・生育適温は18~20℃で低温性の野菜に属するが、萌芽温度は比較的高く植え付け後低温になると萌芽が抑制されて長い日数を要する。
・春以降、25℃以上になると生育が停滞し、葉先枯れの発生が多くなる。
(2) 土壌
・土壌が乾燥すると生育が抑えられ、春先に乾燥が続くと葉先枯れを生じる。
・粘土質の重い土壌が適するが、火山灰土壌でも適正な土壌改良を行うことによって良品生産が可能である。
・pH5.5以下では発根が劣り茎葉の伸長も抑制され、特に強酸性土壌では根の先端が丸くなり伸長が止まる。
・耕土が深く、肥沃で排水性、保水性が優れた土壌が適する。

5.品種

・北海道で作られているニンニクの主な品種は次のとおりである。
(1) 福地ホワイト(ホワイト六片)
・鱗片が6個ほどの晩生多収種。
・色白で品質よく、貯蔵性もあり用途が広い冷涼地に適した品種である。
・古くから栽培されていた青森県苫米地地区の「苫米地にんにく」が、1959年に「福地ホワイト」と命名され、1963年には青森県の奨励品種に指定された。
(2) 富良野在来
・北海道の在来種で、収穫期には草丈90~110cmとなり、完全抽苔し乾球直径5~6cm、重量50~60gとなる。
・成熟期は、ホワイト系より7~10日遅くピンク系である。
・栽培しやすいが変形球の発生が多いため、主に加工用で用いられる。
(3) 白玉王
・「福地ホワイト」選抜系の組織培養個体の中から選抜して育成されたもので、草姿は開で草丈はやや高い。
・葉数は中、葉色は緑、葉身長は中、葉身幅はかなり広、葉身の厚さはかなり厚、葉の角度は鈍、曲り、ろう質及び葉しょう長は中、葉しょう径はかなり太、葉しょうの色は淡である。
・りん茎の重さはかなり重、径は太、高さは高、色は白、首の太さはかなり太、外皮の厚さはやや厚、裂球は難である。
・りん片数(1次)は少、りん片重(1次)は重、外皮の色は白、形状は太丸、離脱は難である。
・抽苔時期はやや晩、抽たいは多、ほう芽性は晩である。

6.作型

・ニンニクは貯蔵性があるため、作型の分化はほとんどない。
(1) ハウス半促成
・9月下旬~10月上旬植え付け、6月中旬~7月上旬収穫
(2) 露地
・9月下旬~10月上旬植え付け、7月中旬~7月下旬収穫

Ⅱ.ニンニクの栽培技術

1.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・生育旺盛な時期に乾燥すると、葉先枯れが発生して生育・収量へ大きく影響するので、保水性のある土壌が望ましい。
・しかし、排水が悪いと根の伸びや生育が抑えられるので、排水性の良いほ場を選定する必要もある。
・適正な土作りをすることにより、これらの条件を整えることが重要である。
(2) pHの矯正と土壌改良
・ニンニクは土壌の酸度が低いと根の生育が不良となるため、土壌pHは6.0~6.5に矯正する。
・有効態リン酸で30mg/100g以上を目標に土壌改良を行う(70mg/100g程度までは増収が認められる)。
(3) 堆肥の施用
・未熟有機物を多量に施すと根に障害を与え、欠株や生育不良となったりして減収する。
・保水性を高めるため、完熟堆肥を10a当たり2~4t施用する。
・堆肥の施用は土壌の保水力を高めて乾燥防止につながるため、大球生産には欠くことができない。
(4) 輪作
・ニンニクは連作が可能とされているが土壌病害もあり、夏作物の収穫後に植付けが可能なことから、経営的には輪作作物と位置付けるべきである。

2.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・各養分は生育の増大とほぼ並行して吸収され、融雪時までは植え付け時の養分含有量とほぼ同じ値であるが、その後、抽台期頃にかけて盛んに吸収され、収穫時の各養分の吸収量は窒素とカリが最も多く10a当たり15kg、石灰が7~8kg、リン酸4kg、苦土1kg程度である。
・養分吸収特性からニンニクの場合、施肥体系は基肥重点よりも追肥重点の体系が良い。
2) 窒素
・秋の植え付けから越冬直後までは生育量、基肥の窒素吸収量ともおだやかで、4月上旬の窒素吸収量は施肥窒素の数%程度でしかない。
・窒素の施肥量は全量で10a当たり20~25kgとし、無マルチ栽培では基肥が7~10kg、分肥は5~8kgずつを4月上旬と5月上旬の2回に行う。
・また、マルチ栽培では緩効性肥料を使い、基本的に全量基肥体系とする。
・なお、りん茎肥大期をすぎて分施を行うと、「玉割れ」が増加するので注意が必要である。
3) リン酸
・土壌中の有効態リン酸含量が少ない場合、リン酸欠如による収量低下が著しくなる。
・リン酸の施肥は、土壌改良が十分行われている畑では、速効性のリン酸質資材を10a当たり20~25kg全量基肥で施す。
・土壌改良が十分でない畑では、施肥リン酸のほかに改良目標値矯正量をようりんなどで施用する。
・リン酸吸収係数の高い火山灰土壌では、リン酸吸収係数の5%相当のリン酸資材を施用する。
・可給態リン酸は50~70mgを目標とする(トルオーグ法)。
4) カリ
・カリは窒素とほぼ同様の吸収経過を示し、窒素以上に施用しても増収しないので、カリの施肥量は窒素と同様に全量を10a当たり20~25kgとし、それぞれの施肥体系により行う。
5) その他の要素
・石灰は吸収量も多く、生育、収量に及ぼす影響も大きい。
・苦土は吸収量は少ないが、葉緑素の生成など重要な働きをする。
・どちらも欠乏すると生育への影響が出てくる。
(2) 施肥設計
1) 施肥設計(例)

 区分 肥料名 施用量
(kg/10a)
窒素 リン酸 カリ 苦土 備考
基肥 有機S696 160 9.6 14.4 9.6 ・追肥分をあらかじめロング肥料で施しておく
・ようりん施用によりリン酸と苦土の補給を図る
ようりん 40 8.0 4.8
 エコロンク250(100日) 40 8.0 2.0 4.0
エコロンク250(140日) 40 8.0 2.0 4.0
合計 280 25.6 26.4 17.6 4.8

 

3.植え付け

(1) 時期
・早植えは、休眠と高温により萌芽抑制が起こり、特にマルチ栽培では越冬前の生育が進みすぎて雪害などの障害を受けやすくなる。
・遅植えは、萌芽遅れにより越冬後の生育に影響し、収量低下につながる。
・植付けの適期は、9月25日頃から10月10日くらいまでである。
・この時期に植え付けると、越冬前に葉数3~4枚、葉長10~12cm程度になる。
(2) 種子の準備
・種球の小さいものは、ウイルス病などのため生産性が劣るので除外する。
・種球は、大きい方が生産性が高いが、大きくなるにつれて芽が2本出たり、不完全抽台が多くなり、また鱗片数が増えて鱗片重が小さく不揃いとなりやすい。
・したがって、種子としては、10~15gのものを揃え、少なくとも7.5g以上のものを使う。
・種子量は、裁植株数によるが10a当たり16,000~24,000株植えるとして、240~300kg準備する。
・優良種苗を使用した場合は、20%程度の増収が期待できる。
(3) 種子消毒
・チューリップサビダニ、イモグサレセンチュウ、黒腐菌核病等の防除のため種子消毒を行ってから植え付ける。
(4) 植え付け方法
・植付けは、鱗片の発根部を下にして、7cm程度の深さに差し込み、覆土する。
・大面積の栽培で植付け作業に長時間要する場合には、小さい種子を早く、大きい種子は遅く植えるようにする。
・萌芽は、は種後20日ころから始まる。
(5) 栽植密度
・一般に、裁植株数が多いほど収量は多くなるが、ニンニクは、大球ほど市場性が高いことから、極端な密植は好ましくない。
・裁植密度は、畝幅140cm、株間15cmの4条植えが一般的であるが、大球生産のため、株間を17~18cmに広げている例もみられる。
・露地1条植えの場合、畝幅45cm×株間10~12cm(18,000~22,000株/10a)
・マルチ栽培の場合、ベッド幅140cmで畝幅24cm×株間14~15cm(16,000~18,000株/10a)
(6) 被覆
・ニンニクの用途は、青果用と加工用に分けられ、青果用では収量・品質向上のためマルチ栽培を原則とする。
・乾燥の害による葉先枯れ発生の対策として、マルチ栽培が有効である。
・ポリマルチの効果は、水分保持のほかに地温上昇、雑草の抑制(黒マルチ)などがある。
・透明マルチは黒マルチにくらべて地温の上昇効果が高く生育が旺盛で、鱗片分化期が1週間程度早い。
・さらに球の肥大も旺盛で増収効果が高く収穫期も早まるが、収穫の適期を失すると裂球の発生が多くなり適期幅が狭いので、収穫期の判定にも細心の注意が必要である。
・グリーンマルチを使用すると雑草防止効果が高く、規格内率も向上する。
・マルチ栽培では秋の気温低下が遅い場合、肥効が早くから発現しやすく、窒素量が多すぎると越冬前の生育が進みすぎ、寒雪害による葉の損傷や越冬後の病害発生につながりやすい。
・マルチ栽培で堆肥を大量に施用している場合、気温の上昇や降雨によって肥効の発現が急激に現れると球割れが発生する。

4.管理作業

(1) とう摘み
・抽台は、普通栽培にくらべてマルチ栽培では少なくなる。
・抽台したとうは、摘み取った方が肥大が良くなる。
・とうの摘み取りは、珠芽が葉鞘から完全に抜け出してから行う。
・珠芽が葉鞘の中にある場合、むりに摘み取ると葉を傷めるので注意する。
・摘らいすることにより、球重は約4割増加する。
(2) 除げつ
・大きい種球を植付けると、2芽の萌芽株が出やすくなる。
・これをそのまま放置しておくと球の肥大が悪くなり、変形したものとなるので、早目(草丈が15cmくらいに伸びた頃)に除げつして1本立てとする。
・除げつは、株の分離後株元の土を掘り生育のよいほうを残すように押え、他を引き裂くようにして抜き取る。
(3) 融雪促進
・越冬後の生育促進を図るため、融雪剤を散布して融雪促進する。
(4) 除草
・ニンニクはかなり密植することから、露地栽培の場合、雑草が繁茂すると作業がしにくくなるので早目に除草を行う。
・マルチ栽培でも透明マルチを使用する場合は、マルチ下にも雑草の発生があるので注意する。
(5) 草勢判断
・青森農試によると、5月中旬頃の第1葉と第2葉の間の茎径を調査することにより、その年のおよその収量予測や生育の良否をつかむことができるとしている。
(6) その他
・収穫間際のかん水は球割れの原因となるので避ける。

5.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、黄斑病、黒腐菌核病、紅色根腐病、さび病、葉枯病、春腐病、ふけ症、モザイク病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、イモグサレセンチュウ、タネバエ、タマネギバエ、チューリップサビダニ、ネギコガ、ネダニなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、着色球、葉先枯れ、変形球などである。

6.収穫

(1) 収穫適期
・ニンニクは、枯葉し始めても球の肥大を続けており、葉が30~50%位黄変した時期が収穫の適期となる。
・ただし、マルチ栽培では球の肥大が早いため、茎葉の黄変だけで判断すると裂球してくるものもある。
・このため、枯葉状態とあわせて随時、球の肥大状況を確認して球の盤茎部と鱗片の尻部がほぼ水平になった時期に収穫する。
(2) 収穫方法
・収穫は手掘りまたは機械掘りで、晴天の日に行う。
・雨の日や湿りの多い日に行ったり、収穫後に雨にあたると色沢が悪く、腐敗が多くなるので注意する。
(3) 乾燥
・掘り取った株は根を切り取り、自然乾燥する場合には茎葉を1/3程度切り落とし10本位ずつ束ね、機械乾燥する場合には茎葉を10cm程度付けて切断し、乾燥する。
1) 自然乾燥法
・収穫したニンニクを通風のよい軒下や収納舎に吊して、陰干しする。
・乾燥中は緑化を防ぐため、直射日光に当てないようにする。
・乾燥期間はおよそ30日程度である。
2) 機械乾燥法
・機械乾燥は乾燥中のカビや腐敗球の発生が少なく、乾燥後の色沢など球の品質が優れている。
・乾燥期間は1~2週間程度で、短期間に仕上がる。
・コンテナ利用の場合は通風をよくするために、コンテナの深さの半分位とする。
・タマネギ用ネット袋を利用する場合は、10kg程度詰める。
・パイプハウスで乾燥する場合は、ビニール(無滴)の上に遮光資材(ビニールシートなど)を張る。
・地面には古ビニール等を敷いて、湿気が上がるのを防ぐ。
・ハウス内部に棚や空コンテナなどで台を設け、その上にニンニクを置く。
・暖房器具や換気扇(扇風機)、除湿器などを設置し、35℃程度の温度と送風で乾燥させる。